マンションで顔知られず、支援利用なく 生後約2カ月の次男を不衛生な環境に放置して重い皮膚炎などを負わせたとして、東広島市の30歳の妻と26歳の夫が保護責任者遺棄致傷罪に問われた事件。乳児は2011年10月31日、運び込まれた病院で死亡が確認された。児童虐待を防ぐための支援は広がるが悲劇は後を絶たない。セーフティーネットからこぼれ落ちた背景に何があったのか。 4月23日、広島地裁であった初公判。夫は次男を病院に連れて行かなかった理由を「ミルクを吐くなど手の掛かる育児でストレスがあり、子どものことを考えてやれなかった」。妻の弁護人は起訴事実は認めた上で心神耗弱状態を主張した。 2人は2007年に結婚。事件当時住んでいたマンションは市中心部の住宅団地にあった。子育て世帯も入居していたが、夫婦について「知らない」「どの人か分からない」と言う。 市内の70代の民生委員児童委員は「オートロックのマンションでは住民と顔も合わせられず、どんな家庭か分からない」と嘆く。高齢者の対応で若い夫婦まで手が回りにくい実情もあるという。 同市では、新生児がいる全家庭を保健師などの相談員が訪問している。市によると、夫婦宅も昨年9月28日に訪ね、約1時間面談して問題ないと判断。事態が悪化していたとされる10月25日も予定していたが、当日妻から都合が悪くなったと連絡があったという。 1カ月での急変について、県西部こども家庭センター(広島市南区)の本広篤子次長は一般論との前置きで、「保護者に急な環境や体調の変化があったのでは。ストレスが子どもに向いてしまう事例は多い」と言う。 0歳児がいて、親が病気などの家庭が対象の市の無料ヘルパー制度もあるが、夫婦が利用した記録はない。夫の母親は証人尋問で「夫婦の長女を預かって育てており、引け目から頼れなかったのかも」と話した。 2011年度、同市が受けた児童虐待の通告は72件。児童福祉法改正で市町村も通告先になった05年度以降、増加傾向にある。市は周知に努めるほか2012年度、家庭を訪れる相談員も1人増やした。 だが、支援に関わる人は「拒否されるとどうしようもない」。助けを求めない家庭を切羽詰まった状況から救うには何が必要か。広島市児童相談所の元所長で比治山大短期大学部の森修也教授(児童臨床心理学)は「妊娠中から関わりを持つなど時間をかけて信頼関係を築く方法も必要では」と話している。(安道啓子、新谷枝里子)
(2012.5.2)
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