中国新聞


子どもの虐待防止 「地域の力」取り戻そう


【社説】 なぜ悲劇は繰り返されるのだろうか。大阪市で小学四年の女児を死なせ、山中に埋めたとして母親らが逮捕された事件。捜査が進むにつれて、日常的な虐待の末に起きたことが分かってきた。

 子どもへの虐待が深刻化し、死に至るケースも後を絶たない。きょうは「こどもの日」。未然に防ぐにはどうすればいいのか、あらためて考えたい。

 殴る、ける。外に締め出す。食事を与えず、病気やけがをしても病院に連れて行かない―。こうした虐待の情報を得て、全国の児童相談所が対応したケースは年に四万件以上に上る。中国地方でも三千件を超えている。

 この数字も氷山の一角だろう。過去にも虐待事件のたびに「SOSが届いていなかった」との反省が繰り返されてきた。

 今回の事件でも教師が女児の顔のあざに気づき、近くの住民は不審な音を聞いていた。それでも親が虐待を否定したため児童相談所に通告しなかったという。きちんと対応していれば最悪の事態は防げたケースかもしれない。

 虐待が社会問題化して久しい。児童虐待防止法は改正を重ね、今や「疑い」だけでも発見者が通報することが義務付けられた。児童相談所による家庭への強制立ち入りも認められた。せっかく進められた法整備である。虐待された子の「サイン」を周囲が見逃さず、通報しなくてはならない。

 窓口は児童相談所のほか警察、自治体でもいい。ところが大阪の事件では、どこに通報していいか分からない人もいたようだ。

 他人の家庭へ口出ししてはと二の足を踏んだり、後々のトラブルを心配したりする人もいよう。しかし、電話一本で子どもの命を救えることがある。そのことを行政はもっと周知すべきである。

 虐待が多発する背景に目を向ける必要もあるだろう。

 広島市児童相談所の分析では、虐待する側の三分の二が母親である。子育ての自信をなくし、相談する相手もないまま社会から孤立する。その中で、つい「しつけ」のつもりで手を上げ、次第にエスカレートする傾向にあるという。その意味では、多くの家庭に起こりうる問題といえる。

 虐待の一歩手前にある親をこれ以上、孤立させないような仕組みを整えるべきである。

 ひろしまこども夢財団は、子育て中の親に「サポートブック」の配布を始めた。親と子が思いを書き込む絵本。別に暮らす家族に見せれば不安も共有できる。子が成長した後も記憶をたどり、愛情を再確認できる。虐待の防止につながる試みだ。

 かつては子育ての悩みを打ち明ける祖父母や近所の人が、そばにいた。それに代わる環境をつくれないだろうか。行政のリードや後押しで、子育ての経験者らが引きこもりがちな親の相談に乗ったり、子どもの異変を察知したりするシステムである。幅広い「地域の力」を取り戻さなくては、子どもたちを守れないのではないか。

(2009.5.5)

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