親への支援、手を尽くせ どうすれば、食い止めることができるのだろう。虐待のつらいニュースが連日のように飛び込んでくる。 2011年度は約6万件の相談が全国の児童相談所に寄せられ、21年連続で過去最多を更新した。もはや人ごとではない。虐待は、誰もが陥るかもしれない問題である。 国民の関心や意識が高まり、虐待をキャッチしやすくなったという面はあるだろう。それでも守れなかった命がある。10年度に虐待死した子どもは、心中も含めると98人。前年度より10人増えている。 親は何に追い込まれているのか。どんな支援が必要か。まずはしっかり見極めなければならない。 虐待の背景には大きく三つの要因が考えられる。まず、経済的な困難に直面していること。非正規雇用の広がりは子育て世代にも及んでいる。 「仕事で疲れてイライラしてしまう」「こんなに苦しいのはこの子のせい」…。子どもをたたいてしまうという母親のつぶやきを聞いたことがある。精神的な余裕も奪われ、わが子を不安のはけ口にしてしまうケースも多いのではないか。 経済を立て直し、雇用環境を整える。それが虐待を防ぐためにも重要な施策となることを国は肝に銘じてもらいたい。 ほかには「親の孤立」や「育児不安」が挙げられる。人間関係が希薄になり、相談相手もいない親の姿が浮かぶ。 自分の子育てが正しいのかどうか、不安やプレッシャーもあるだろう。他人の目におびえ、引きこもりがちになる人もいる。子どもに障害がある場合も含め、育て方に迷うようだ。 いろんな要素がからみ合ううえ、親自身が愛されて育ったかどうかも影響するとされる。周囲の理解やさりげない支えが何より求められるだろう。対話を重ね、寄り添う支援こそ虐待を食い止める鍵に違いない。 それだけに、児童相談所の体制強化は重要である。現場の児童福祉司は、目いっぱい動き回っても追いつかないのが実情のようだ。総務省の調査では、児童福祉司の94%が「業務の負担が大きい」と感じている。 親と信頼関係を築くには、きめ細かく、しかも息の長い関わりが欠かせない。実態に応じた職員配置が必要だ。経験やスキルが求められるだけに、手厚い研修も忘れてはならない。 関係機関の連携も問われている。保育所や小中学校の中には虐待の恐れを認識しながらも、児童相談所などに通告しなかった例があるという。総務省が1月、厚生労働省と文部科学省に徹底を求め勧告した。 4月導入の親権停止制度にも注目したい。民法改正により最長2年間、親権を一時停止できるようになった。 深刻な虐待から子を守る手だてになるだろう。一切の親権を剥奪するのではなく、いったん冷却期間を設けることで、親としてのやり直しを求める制度である。親子が関係を築き直すために、どう支えていくかも課題になる。 私たち一人一人にもできることがある。地域のおじちゃん、おばちゃんとして子どもに積極的に声を掛けたい。君を見ている大人がいる。そんなメッセージを伝えていきたい。 (2012.7.29)
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