虐待再発を防ぐ手段に 【社説】子どもを親の虐待から救う有効な手段になるだろうか。最長2年間、親権を一時停止する新たな制度の導入を法相の諮問機関である法制審議会の部会が打ち出した。 親は未成年の子どもに対して生活の世話や教育、しつけをするなどの権利と義務を持つ。民法で規定されている親権だ。 虐待などの行為があるときは、家庭裁判所の判断で親権の喪失を宣告することができる。ただ宣告によって親子の縁も切れてしまう。こうした事情もあって二の足を踏むケースも多く、実際の喪失宣告件数は年間20件足らずにとどまっている。 そこで、一定の期間が過ぎれば親子が元のさやに収まることができるようにするのが親権の一時停止である。存続と喪失の中間的な位置付けにすることで、抵抗感を和らげることが期待される。 適用条件も緩めている。「虐待または悪意の遺棄」「子の利益を著しく害するとき」に限定している喪失に対し、停止の方は「子の利益を害するとき」と範囲を広げるとしている。 さらに、申請できる人も子どもの親族、検察官、児童相談所長に、虐待を受けている子どもと後見人を新たに加えた。子ども本人の申し立てに道を開いたのは画期的といえよう。 しつけで親が叱ることができる懲戒権については「子の利益のため」との要件を加える。子どもの側に立って乱用を戒める方針がうかがえる。 来月開かれる審議会総会で決議して法相に答申する。通常国会に関連の民法改正案などが政府提案される見通しだ。虐待の再発を防ぐ「道具立て」は一応整うことになる。 最前線に立つ児童相談所は親子を引き離す一方で、将来的に再び暮らせるようにする役割も担っている。その点からすれば、親権一時停止は効果的な手段にもなりうるだろう。 一方で懸念されるのは、導入されても使いこなすだけの態勢があるかどうかだ。通告・相談件数の急増や対応する事件の深刻化などで、児童相談所は手いっぱいの状況がうかがえる。 広島県内でもこの10年間で通告・相談件数は4倍に増えた。保護した子どもたちは2009年度に400人を超える。 児童相談所に配置される専門の職員数は法に定められた基準のほぼ上限という。それでも対応に追われて「限界状態」との声が上がっている。職員の配置基準も考え直す必要があるのではないか。 児童虐待防止法が施行されて10年余り。2回の改正で、立ち入り調査や親への出頭要求など行政の権限が強くなったのは確かだ。 しかし悲惨な虐待は後を絶たない。通告を受けても居住者を特定できなければ強制的な立ち入り調査ができないなど、制度の問題点も浮き彫りになっている。 新たな制度が有効に生かせるよう相談、保護、ケアの全体も含めた見直しも求められる。 (2010.1.19)
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