助産院、予約打ち切りも ▽病院3カ所のみ、医師確保が課題 山口県内の五つの周産期医療圏で唯一、妊婦の受け皿不足が指摘される岩国・柳井地域。圏域人口の約6割が暮らす岩国市で先月、助産院が出産予約の受け付けを打ち切った。同市で出産できるのは、出張助産師を除けば病院3カ所だけになる。地元で産める体制をどう整えるのか。厳しい実情が浮かび上がる。 開業17年目の岩国市尾津町の助産院マミーズハウス。助産師の長川幸子院長(62)は、近年は年間約40件の出産を手掛けてきた。しかし「気力、体力ともつらくなった」と6月までの予約分で出産の取り扱いをやめる。後継者の育成も「緊急時に妊婦を搬送できる産科が少ない環境」を理由に断念した。 県が3月にまとめた周産期医療システム基本構想は、岩国、柳井市と和木、周防大島、田布施、平生、上関町がエリアの岩国・柳井地域の年間出生数を1753件と推計。これを、圏域にある出産可能な岩国市5、柳井市2の計7施設の2010年の取り扱い予定数1513件と比較し、240件分の受け皿不足と分析した。 同構想は、隣接の周南地域での出産を望む妊婦がいる点も踏まえ、岩国・柳井、周南両地域を合わせて考えると「体制は不十分でない」と指摘。その上で岩国・柳井について「日常生活圏の近くで出産できるよう病床稼働率を上げることが望ましい」とした。 ■市外出産は36% 岩国市によると、10年に届けられた新生児は1225人。任意の出生連絡票で出生地が把握できる854人中308人、約36%が市外出産だった。同市川口町のピアノ講師邑川秀美さん(41)は「次女も岩国で産みたかった」と打ち明ける。3歳の長女を同市内の病院で産んだ時、帝王切開だったため「第2子はうちでは難しい」と医師に告げられた。1歳6カ月の次女は広島市の広島大病院で出産。「同じ病棟に岩国の人が多くて驚いた」と振り返る。 県は岩国市内で出産できる施設数を、出張助産師1人を含む5と集計。マミーズハウスと出張助産師を除けば、国立病院機構岩国医療センター(黒磯町)▽はるなウィメンズクリニック(平田)▽岩国病院(岩国)―の3病院になる。 ■院内助産を検討 圏域の地域周産期母子医療センターと位置付けられる岩国医療センターは年約280件の出産の約6割が早産などリスクの高いケース。小児科・産科の機能集約に関して県が08年に策定した計画で、産科医を優先配置する連携強化病院の指定を受け、産婦人科常勤医7人の確保が目標とされた。しかし現在、産婦人科常勤医は3人。新谷恵司医長(57)は「急患対応もあり医師が1人抜ければ態勢は崩れる」と説明する。 常勤医2人で年約400件を扱うはるなウィメンズクリニックの春名伸彦院長(53)も「市民の出産に市内施設で対応しきれていない」と憂慮。年300件以上を扱う岩国病院(岩国)は常勤産科医が庄司孝院長(76)しかおらず、助産師が中心となって出産を扱う院内助産の本年度中の導入を目指す。 厳しい実情にも、岩国市健康福祉部は「関係機関と連携し、産婦人科医の確保に努める以外、病床稼働率を上げる手立てがない」とする。 他の周産期医療圏では、県立総合医療センター(防府市)と山口赤十字病院(山口市)が09年4月、徳山中央病院(周南市)が10年3月から院内助産を導入している。廿日市、大竹両市はJA広島総合病院(廿日市市)の助産師育成事業に助成している。(標葉知美)
(2011.7.29)
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