運動機会減 児童の体力格差拡大 陸上や水泳など体育の個人レッスンを請け負う「体育の家庭教師」の利用が、小学生を中心に中国地方でも増えている。共働きの家庭や、習い事で忙しい子どもたちが増え、家庭の中や地域で運動する時間が少ないことなどが背景にある。専門家は、集団で学ぶ機会が減る現状を懸念し、体育の授業の充実を求めている。 ▽「集団の意義」 学校授業の充実急務 7月中旬の夕方、広島市安芸区の公園で、みどり坂小3年の大路航平君(8)が、直径30センチほどの輪から輪へ跳んでいた。輪の色ごとに足を踏み替え、反射や判断力を鍛える。 「上半身を意識して。バランスを崩しやすいぞ」 指導する男性は、福山市の個人事業者「体育の家庭教師 パワフルキッズ」代表の伊藤秀夫さん(25)。航平君は昨年10月から週1回、体力強化のレッスンを受けている。 申し込んだのは母親美登里さん(37)。「運動で自信をつけ、積極的になってほしい」と話す。「夫が忙しく、私も運動の教え方が分からなくて」と美登里さん。半年たった今、「友達に思ったことを言えるようになった」という。スポーツ団体にも所属する航平君は「体を動かすのが楽しい」と意欲的だ。 ■会員徐々に増加 伊藤さんは2008年、県東部を拠点に個人で体育の家庭教師を始めた。県内の水泳教室で講師をしていた時、脱落しやめていく子どもを見たのがきっかけ。「運動ができない子を支えたい」と、陸上や水泳の個別指導を始めたのだ。 福山市から広島市、岡山県にも指導範囲を広げ、今春、関東へ進出した。会員は徐々に増え現在、30人。スタッフも11人になった。会員は、発達障害などで集団に入れない子から、プロを目指す子までさまざまという。 「体育の家庭教師」指導料は一般的に1時間3千〜5千円程度。安い額ではないが近年、首都圏中心に全国へ広がりつつあるという。家庭教師のトライ(東京)は今春、元プロ野球選手ら専門講師による体育部門を新設した。「依頼者の7割は体育が苦手な子。学校は個別に教わる時間が少ない」と執行役員勝木啓文さん(37)は話す。 足を上げて走れない。物を投げられない。子どもの体力低下は、1985年ごろから問題視されてきた。広島県教委によると、児童生徒の体力・運動能力調査で、現行の調査形式になった00年度以降は年々上昇傾向にある。10年度は全国と比べて「同じか上回っている」種目が7割に達した。 ■外出せぬ子ども ただ、小学5年を85年度と比べると男女とも、握力、50メートル走、ボール投げの全てが下回っていた。 教育現場では「子どもたちの中で運動を『する、しない』『得意、不得意』の差が広がっている」との指摘もある。きょうだいや近所の友達と外で遊ぶ機会が減り、室内で過ごす傾向が強まっているという。公園でのボール使用禁止などのため思いきり遊べる場所が乏しい実態もある。 東広島市でボランティアの陸上教室を開く整体師の花守慎太郎さん(36)も、小中学生の体力格差を感じる一人だ。「集団では取り組みに差がある。個別に競技力を伸ばしたり、苦手を克服したりしたい」と今春、有償で家庭教師を始めた。「小さいうちに年齢に応じたトレーニングを提供したい」と語る。 個人指導が広がる半面、集団での体育の意義を説くのは安田女子大文学部児童教育学科長の徳永隆治教授(60)=体育教育学。「体育教科の狙いは、技能習得だけではない。集団で運動し、教え合いや競い合いも大切だ」と強調する。「体育の苦手な教員もいて、技能指導が行き届かない場合もあるのではないか。体育の専科教師を配置するなどし、教員側のスキルアップを図ることも必要だ」と提言している。(赤江裕紀) (2011.8.8)
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