【社説】 「育メン」は、子育てに熱心な男性に対するほめ言葉だ。例えば、妻の出産の前後などに一定期間の育児休業をとることは、その一歩だろう。しかし現実には休業する男性は100人に1人強。中小企業ほど少ない。 そこで誘い水に、と広島県が新年度から、事業主への育休奨励金制度を始める。中国地方では鳥取、岡山に次ぎ3県目となる。 育児にかかわることは、本人や家族だけでなく、実は企業にもメリットがあるという。奨励金を機に誰かが一歩を踏み出し、それをモデルに次が続き、「育メン」の輪が広がっていけばいい。 奨励金は、300人以下の中小企業を対象にしている。男性社員が1週間以上の育休をとれば20万円、1カ月以上なら30万円(第2子からはそれぞれ10万円、20万円)が企業に支給される。 夫婦で子育てをするのが当たり前の欧米諸国では、男性の育休取得率が10〜80%台。日本は1・2%ではるかに低く、広島県の数字はそれをさらに下回る0・8%だった。新制度は「仕事と子育ての両立」に向けて、新知事のカラーのにじむ政策となったようだ。 育休をとった方がいいと思う男性は、県の調査で7割に上る。しかし「利用したい」となると4割に落ちる。「上司や同僚に気兼ね」「制度が整っていない」「制度があっても前例がない」など職場環境の理由が多かった。 その意味では、県が会社側に働きかけようとする方向に間違いはない。ただ奨励金という金銭面の動機付けだけでは、まだ足りないかもしれない。 内閣府などのアンケートによると、男性社員が育休をとった会社では経営面で目に見えないメリットがあったという。 職場の「穴埋め」を考えているうち、仕事のやり方を見直すきっかけになった。あるいは復帰した男性社員の視野が広がった、愛社精神が高まった―などだ。 それだけではない。「従業員の定着率を上げるため」「イメージアップでいい人材を採るため」など男性育休を戦略として考えている企業も、県内にはある。 県は、制度スタートに当たって事業主にこうしたプラス面をもっとアピールすべきだろう。会社側も「査定でマイナスにならない」と明言し、積極的に手が挙がる雰囲気づくりが欠かせまい。 男性が育休をとりにくいもう一つの理由は収入減だ。ただ休業中は無給でも、雇用保険に入っていれば給与の30%が得られ、後に20%が別に支給される。有給休暇や土日とも組み合わせれば、1〜2週間休んだとしても収入減は最小限に食い止められよう。 ここは考えどころではあるまいか。長い人生のほんの短い時間を費やして、子育ての発見や感動、家族とのきずな、人間の幅が得られるとしたら…。しかもこの6月からの法改正で、分割取得などもできるようになる。 育休奨励金制度のもたらす波及効果に期待したい。 (2010.2.22)
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