【社説】 少子化がこのまま続けば今世紀末には人口が半減する。大正ごろの水準だ。経済力が落ち、年金や介護保険などの仕組みも成り立たなくなろう。手遅れになる前に対策を講じなければならない。 その一つが、子育てをしながら働き続けられる職場づくりだ。仕事と両立しやすくするための義務を企業に課す育児・介護休業法の改正案が衆参両院とも全会一致で可決され、成立した。 3歳未満の子を持つ社員を対象に1日6時間程度の「短時間勤務制度」導入を義務付ける。社員が望めば残業も免除する。まだ2〜3割の企業しか取り入れていないこうした制度を一気に増やす狙いだ。就学前の子が2人以上いれば「子の看護休暇」を年5日から10日に増やすことも盛り込んだ。 これまで企業は、託児施設の設置など、いくつかの選択肢から一つ取り入れればよかった。もちろんこれでは不十分だった。実際、第1子の出産を機に67%の女性が仕事を辞めている。何とかして、という母親の切実な声にやっと政治が動いたといえよう。 父親にとってのメリットも加えた。妻が専業主婦の場合、今は育休取得を申し出ても、企業は拒否することもできる。企業の4分の3が持っているこの「拒否規定」は禁止することにした。 男性の約3割は育休を取りたいと考えている。しかし1・56%しか取得できていない。「夫も育休」の流れを起こしたい。 こうした規定に違反した企業は指導や勧告に従わなければ名前を公表される。大きな縛りになるに違いない。 ただ残された課題もある。今回の対象にならなかったパートや派遣などの非正規労働者だ。正社員と同様の待遇実現も急がねばならない。休業前の賃金の50%とした「育児休業給付」の支給水準引き上げも検討すべきだろう。 気になるのは経済状況だ。不況が深刻化した昨秋以降「育休切り」が増えた。育休取得や妊娠を報告すると解雇をほのめかされたり、パートや契約社員への格下げを打診されたり…。そんな相談が中国地方の各労働局で相次いでいる。規模の小さな企業に多い。 政府が、中小・零細企業を支援する仕組みを設ける必要がある。ワークシェアリングや、補充要員を複数の会社でカバーするなど働き方に知恵を絞りたい。 「育休切り」のような職場復帰をめぐるトラブルを防ぐため、育休期間などを明記した書類の写しを必ず渡すよう省令を改正することを決めたのも前進だ。与野党合意による成果といえる。 職場では「育休によってしわ寄せが及ぶ」と思う同僚がいるかもしれない。しかし、子どもを産み育てやすい環境づくりは、長い目で見れば、自分たち、ひいては日本全体のためにもなる、という意識変革が必要ではなかろうか。育児の負担を今までのように家族、とりわけ母親に押しつけるのではなく、みんなで分かち合う社会を目指したい。 (2009.6.30)
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