景気より政策が影響 国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩さん指摘
子どもの7人に1人が貧困―。厚生労働省は10月、子どもの貧困率を初めて公表した。かつて「1億総中流」といわれた日本だが、生活苦にあえぐ家庭の割合が先進国の中で高い実態が浮かび上がった。なぜなのか。「子どもの貧困」(岩波新書)などの著書がある国立社会保障・人口問題研究所(東京都)国際関係部第2室長の阿部彩さんは「景気よりも所得の再分配など政策の影響が大きい」と指摘する。(岩崎秀史) 負担と給付 抜本的議論を 厚労省が公表したのは、経済協力開発機構(OECD)が国際比較に用いる「相対的貧困率」。自由に使える標準的な所得の半分(2006年は1人当たり114万円)未満で暮らす人の人口に占める割合を表す。さらに18歳未満の子どもがいる家庭に絞った「子どもの貧困率」は06年、14・2%だった。 各国共通のデータで子どもの貧困率を比べると、日本(03年、13・7%)はOECD加盟30カ国の平均12・4%を上回り、12番目に高い。景気の波は各国が受けるのに、なぜ日本の貧困率は高いのか。 10月下旬に広島県議会特別委員会で意見陳述した阿部さんは、1990年代から不景気、非正規労働者の増加などを背景に貧困率の上昇が始まったと指摘。昨年来の世界的な不況の影響で、今後さらに急カーブを描くのは必至とみる。 さらに、阿部さんが着目するのは、政府が所得を再分配する税負担と社会保障の給付のバランスだ。 低所得者の税負担を軽くし、社会保障を手厚くするほど、貧困の削減は期待できる。ところが、日本は、収入自体で計算した子どもの貧困率は12・8%なのに、収入から直接税と社会保険料を引き、児童手当など社会保障の給付を加えた再分配後だと、13・7%に悪化する。 OECD加盟国は軒並み再分配後に貧困率が下がり、悪化するのは日本だけ。「この逆転現象の解消が欠かせない」と阿部さんは訴える。 貧困の家庭で育つ子どもは学力や健康、親から受ける愛情などで不利を受けるとも指摘。「すべての子どもが基本的な医療、衣食住、教育を受けられるようにすべきだ。弱者救済というより、将来を担う人材育成の投資と考え、負担と給付の在り方について抜本的な議論をする必要がある」と提言。自治体に対しては保育所の運営や就学への援助、医療費無料化の拡充を求めた。
(2009.11.6)
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