低所得拡大
景気低迷や不安定な雇用形態が生む「貧困」。暮らしを脅かすそれは、今や特別なものではなく日常にある。親が生きるのに精いっぱいな時、しわ寄せを受けるのは子どもたちだ。貧困のもたらす「罪」を考える。(岩崎秀史) 「年末で仕事がなくなる。新しい仕事を探さないといけないんだ…」 広島市東区に暮らすマツダの派遣社員の男性(47)が告げると、中学三年の長女(14)は「えっ」と驚き、口をつぐんだ。本社宇品工場(南区)で二年余り勤めたが、二十六日で契約を打ち切られる。景気の急速な悪化による「派遣切り」だ。 「派遣切り」進む 長女は来年、高校受験だ。家計が楽でないのを察し、新しい服を買ってあげようとしても「いらないよ」と気を使う性格。父に動揺を見せない。ただ、近くに住む祖父(73)に「これからどうなるんだろう」と不安を打ち明けた。父が夜勤の夜、一人で家にいるのが寂しい。祖父宅に泊まり、受験勉強する。 男性は以前、東京で正社員として働き、一家は不自由のない生活を送っていた。ところが妻が心を病み、いさかいが絶えなくなって二〇〇四年に離婚。引き取った長女の養育を考え、広島へ帰郷した。四十歳を超えると職は選べない。低収入で身分が不安定な派遣社員しかなかった。 手取りは毎月二十万円ほど。生活費を補うための債務の返済もあり、親子二人でギリギリの生活だ。貯金はない。修学旅行費の五万円や毎月の給食費四千円を工面するため、今年四月から市の就学援助を受け始めた。親のプライドもあり、長女には知られないよう援助を申請した。 「娘はそこそこいい成績。高校に行かせてやりたい」と再就職先を探す。派遣会社やハローワークに問い合わせるが、色よい返事はない。家では明るく振る舞おうとしているが、長女の目はごまかせない。「お父さん、元気がないね」との言葉に、ドキッとする。 「これ以上、生活レベルは落とせない。だが、年が年だし…」。実直に勤めれば正社員になれると思い、懸命に働いてきた。なのに…。暗転し始めると、歯止めもかからず窮していくのが「現代」だ。不安を抱え、年を越す。 市教委は危機感 広島市で就学援助を受ける小中学生はこの十年間で倍増し、四人に一人が援助を受ける。本年度も申請書が山のように市教委へ届き、受給者は二万五千人を超える見込みだ。市教委学事課の外和田孝章課長は「雇用や賃金の問題が根本にあり、広島市だけで解決できる問題ではない」と危機感をにじませる。 生活に困窮する家庭で育つ子どもは、食事など基本的な生活習慣や学習面で、ハンディを負いやすい。社会に余裕がなく、克服の手だても与えられにくい今、将来の希望を失いかねない。児童福祉、教育の関係者はそれを一番恐れる。 (2008.12.25)
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