生活資金給付へ基金設立 東京のNPO
茶髪にジーンズ姿の男性が、募金箱を手に力説する。「自分の食いぶちも大切だけど、よその親子のことも考えませんか」。男性は、父親の育児参画に取り組むNPO法人「ファザーリング・ジャパン」(東京都文京区)の安藤哲也代表(46)。広島市中区での講演会の一こまだ。 安藤代表は3月、父子家庭に生活資金を給付する「フレンチトースト基金」を設立した。米国の映画「クレイマー・クレイマー」で、妻と別れた主人公が困惑しながら、息子のためにフレンチトーストを焼くシーンに由来する。 安藤さんは元書店員。妻と2人の子どもがいる。子どもの小学校入学まで毎晩続けた絵本の読み聞かせで育児の楽しさを知り、2006年にNPO法人を設立。全国の父親と交流する中で、父子家庭の現実を目の当たりにした。 ▽妻が去り苦境に NPOメンバー(約90人)のうち、シングルファーザーは3人。「仕事一筋の夫のそばから突然、妻が消える。浮気や借金などの心当たりもない夫は『まさか』『なぜ』と途方に暮れる。3人とも同じパターンでした」と安藤代表。妻が去った後の経済的苦境も共通していた。 育児と仕事の両立に行き詰まり、時間に融通の利く非正規雇用に転じると、収入が激減する。雇用保険すらない場合も多い。 厚生労働省によると、父子家庭の平均収入は421万円。母子家庭の213万円に比べ、恵まれているように見えるが、育児を祖父母に任せて正社員として働く事例が平均を押し上げているだけ。年収300万円未満の世帯は37・2%に達する。 安藤代表は「不況下で効率最優先の経営に走る企業は、一人親を『足手まとい』と切り捨てる。親の貧困が子に連鎖する事態に、企業の責任は大きい」と強調する。 ▽遺族年金の盲点 さらに、安藤さんは「最も忘れられがちなケース」として、妻との死別を挙げる。厚労省によると、父子家庭になった理由のうち、死別は22・1%を占める。 夫と死別すると、妻は「遺族年金」を受け取れる。しかし、給与所得者である妻が死んだ場合、夫は55歳以上でないと受給できない。「妻が自営業」というケースでは、夫の受給は想定すらされていない。安藤代表は「『夫は仕事、妻は家庭』という古い考え方がその背景にある」と指摘する。 「父子家庭の厳しい現実を目に見えるようにすることで、多くの人の関心を高めることが支援充実への近道」と安藤代表。「すべての親子が共に笑う」という目標は、父子家庭の子育てを見守る社会全体の理解なしには実現しない。(石川昌義)
(2009.10.18)
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