年10件程度 低い認知度 広島市、導入10年
一人親家庭の支援事業として広島市が導入している「ひとり親家庭等児童訪問援助事業」の利用が低調のまま推移している。制度開始から十年、援助員の派遣実績は毎年、十世帯程度。認知度不足が最大の要因とみられる。「有効な制度」として、支援団体関係者からは、より積極的に利用を促すよう求める声も上がっている。 「思春期特有の親に言いにくい悩みを吸い上げてくれ、助かった」。父子家庭で子育てを経験した元「ひろしま父子会」代表の岩見正俊さん(63)=安佐南区=は言う。息子が小学校高学年のとき週二回二時間、独自に探した大学生に家に来てもらった。その経験から、年の近い援助員の役割は「重要」といい切る。 ▽無料 最大4時間 事業は、登録した大学生や専門学校生が一人親家庭を週一回、原則、最長六カ月間訪問し、小中学生の学習指導や悩み相談にあたる。利用は無料で、午前九時から午後七時までの最大四時間。中学三年まで利用できる。 しかし、派遣実績は始まった一九九八年度から二〇〇六年度まで、一年あたりわずか三―十二世帯。〇六年度は四十九世帯が登録したが、実際に派遣を受けたのは十世帯だった。援助員数も〇三年度の三十八人に比べ、〇七年度は十六人と半分以下に減少した。 利用の伸び悩みの一つの要因として、市児童福祉課は、援助員の登録があっても、派遣を望む家庭と援助員の自宅が離れるなど不一致により派遣を断念するケースも多い点を挙げる。 一方、「残念ながら市のサービス事業の認知度が低い」と言うのは、福祉政策に詳しい広島文教女子大人間福祉学科の立石宏昭教授。示したのは、〇六年八月に自治労連広島などが保育園児のいる家庭や「留守家庭子ども会」の利用者を対象に実施し、計約千六百世帯が回答した子育てアンケート。保育園児のいる家庭の約67%が広島市の子育て支援サービスを「よく知らない」か「知らない」と答えたという。 ▽「十分需要ある」 市の一人親家庭世帯数は〇六年度末現在、母子約一万二千八百世帯、父子約二千百世帯。各区保健福祉課に配置され一人親家庭の相談にのる母子自立支援員への相談件数は、〇六年度約一万八千件とこの五年、高止まりで推移。この数字から、「(訪問援助事業にも)十分需要はある」と立石教授は指摘する。 市内の児童館など百四十五カ所で放課後から午後五時半まで、子どもを預かる「留守家庭子ども会」。利用登録者数は、〇三年度の五千五十人から〇七年度は六千百九十七人と四年で約千人増加。新年度から保育時間を午後六時半まで延長する方針を市が決め、さらに利用者増が見込まれる。 立石教授は、アンケートの「子ども会を利用しやすくするために望むこと」の項目で「保育時間の延長」がトップの41・2%と、〇二年度の前回調査の24・1%から大幅に上昇した点に注目。「時間帯設定が、留守家庭子ども会より柔軟な点に訪問援助事業の価値がある」と強調する。 さらに、「子ども会は小学三年まで。次年度から預けられなくなる一人親家庭に事業を紹介するなどニーズのありそうな所への周知徹底を進めてはどうか」と提案する。岩見さんも「せっかくの制度。市は積極的にアピールを」と訴える。 新年度の援助員の登録は七人と低調。市は再募集も検討する。市は「具体的な話をすれば制度の紹介もしやすいので各区の相談窓口に来てほしい。援助員を増やす努力をし、各家庭のニーズに応えたい」としている。(樋口浩二) (2008.3.17)
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