出雲 陳情受け手当新設 全国に約9万世帯ある父子家庭。公的支援のはざまにあり、経済・雇用情勢の悪化を受け、貧困にあえぐ家庭も多い。新政権の方針を受け、厚生労働省は母子家庭に限られてきた児童扶養手当の父子家庭への支給を概算要求に盛り込んだ。「薄日」が差しつつある中、支え合いの輪を広げようと動く人々の姿を追った。(石川昌義) 漢字ドリルに励む小学4年の双子(10)に声を掛ける。「ここは『止め』。『はね』ちゃいけんよ」。どこにでもある家族の風景だが、出雲市大社町の山根亮輔さん(35)にとって、子どもと過ごせる夜は週2日しかない。介護施設の泊まり勤務を2カ所で掛け持ちしているからだ。 山根さんはシングルファザー。同居する両親の協力を得て、今夏から掛け持ちを始めた。「1カ所だけだと貯金もできない」とこぼす山根さん。以前の年収は270万円。2007年12月、「父子家庭の家計支援」を求め、山根さんは市議会に陳情。翌年4月、市が1世帯当たり月5千円の「父子手当」を新設する糸口をつくった。 ▽転職し年収激減 離婚したのは02年。工場勤めの当時、残業で深夜に帰宅する日々が続いた。東京出身で近所に知人もいない妻のストレスは限界に達し、やがて別れを切り出された。 求職は育児と両立できるかが前提となった。「残業が少ない」と聞いて就職した別の工場。定時に帰宅しようとすると、上司は「よう病気する子じゃのお」「子どもなんか、保険金掛けて殺してしまえ」と暴言を吐いた。 山根さんは「育児に理解のある職場を探したら、女性の多い介護施設に行き着いた」と話す。臨時職員のため、年収は離婚前の約400万円から激減。貯金はない。 中国地方で父子家庭の家計状況を独自調査している山口、島根、鳥取の3県。島根県の05年のデータによると、父親の平均年収は300万円台が23・3%と最も多かった。 山根さんが声を上げたきっかけは、鹿児島県で父子家庭への支援を求める陳情をした父親のホームページを見たこと。市議会事務局に飛び込み、陳情文の書き方を教わった。後に知り合った市議から「父子家庭がここまで大変とは知らなかった」とも聞いた。 ▽制度知らぬ人も 「父子家庭は社会の隅に忘れられた存在」と山根さん。母子会のようなサークルが父親にはなく、横のつながりがないから、就学援助のような公的制度の存在も知らないまま、育児に疲れ果てる父親もいる。「最も悲惨なのが虐待。追い込まれる父親も多い」。山根さんはため息をつく。 政権交代を機に、道筋が示された父子家庭への児童扶養手当支給。山根さんは「国の責任で対応するのは大きな前進」と喜ぶ。一方で「お金だけでなく、困っている父親が出会い、励まし合う仲間づくりを支えてほしい」と願う。
(2009.10.17)
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