県立高が抱える山間部3町の過疎・少子化
島根県川本、邑南、飯南の3町が、町内県立高への無料通学バスを相次いで走らせ始めた。過疎と少子化が深刻な中国山地にあり、定住を施策の柱に掲げる3町にとって、高校の存廃は地域の浮沈を左右する。バスは隣町にも乗り入れ、生徒の確保競争が熱を帯びている。 午前6時35分。邑南町が運行する同町の矢上高の通学バスが美郷町都賀西の大和小に着いた。矢上高へのルート途中にある邑南町営バス停留所までの34キロを55分で結ぶ。生徒はそこから別の町営バスに乗り換える。 邑南町は4月から、美郷町の大和地域に朝夕各1便、通学バスの運行を始めた。事業費約350万円を投じ、同町の矢上高生8人が利用する。 うち3年の三上大貴君(17)は、弟の1年拓真君(16)とバスを使う。兄は今春まで矢上高の寮で暮らしていた。母理香さん(44)は「2人が寮生活だと家計が厳しく、パートに出ようと考えていた。無料バスは本当に助かる」と喜ぶ。 美郷町には、飯南町が2007年から町営バスを乗り入れ、飯南高(飯南町)の生徒の定期代を全額補助。本年度は32人が利用する。川本町も4月から、町内の島根中央高の無料通学バスを走らせ始めた。 ▽周辺から乗り入れ 美郷町には邑智高があったが、生徒の減少で09年3月に閉校した。地元高校を失った同町には、周辺3町の通学バスが乗り入れるようになった。前県教委県立学校改革推進室長の、三上昭憲・島根中央高校長は「他市町村は定期代の一部補助が主流。複数校の無料バスが走るケースは珍しい」という。 自宅から通える高校が少なく、進学の選択肢が限られる県内の山間部では、以前から松江、浜田両市などの学校へ生徒が流出していた。学校存続に向けて進学指導や部活動の魅力アップに取り組む山間部の各校にとって、まず通学手段の確保が必要になっている。 川本、邑南、飯南の3町で無料通学バスに最も早く取り組み始めたのは川本町だ。学校再編で07年に開校した島根中央高は初年度から定員を割った。広範囲から生徒を確保するため同年に大田市へ、08年に江津市へ通学バスの運行を始めた。町教委は「町外から生徒を集めないと学級減に追い込まれる」。 ▽私立高もライバル 学校存続に向けて懸命の取り組みを展開する3町にとって、ライバルは公立高だけではない。私立石見智翠館高(江津市)は11年から川本、邑南両町に無料通学バスを走らせ、2人が利用している。 近年、急速に進学実績を重ね、スポーツの全国大会でも好成績を残す同校の存在に、川本町は神経をとがらせる。同校が昨年6月、町内で広報紙を配ったことを受けて、8月から「島根中央高校だより」を制作し、町内などで配布した。 一方、中山間地域の生徒数は減少の一途をたどる。川本、邑南、美郷、飯南の4町の中学校を今春卒業した生徒は209人。10年前の335人から126人(37・6%)減った。減少幅は島根中央、飯南両高校の今春の合計入学者数に匹敵する。 過疎と少子化で過熱する生徒確保への取り組み。三上校長は「交通が不便で遠距離通学を強いられる過疎地にとって、無料通学バスは必須。今後は、どのように学校の個性を磨いていくかが鍵になる」と強調している。(黒田健太郎) (2012.4.16)
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