中国新聞


男性の育休広がるか
改正育児・介護休業法 6月施行
再取得・期間延長可能に 企業・自治体の支援が鍵



 改正育児・介護休業法が、6月に施行される。低迷する男性の育児休業取得率の底上げが、柱の一つだ。父親の育休は、子育てに熱心な「イクメン」への第一歩。力強く踏み出すためには、企業や自治体の後押しが欠かせない。(編集委員・木ノ元陽子)

 アヲハタ(竹原市)のジャム工場に勤務する上田洋介さん(31)=三原市=は昨年9月、長女の誕生から約1カ月後に5日間の育休を取った。「なるべく早いうちに、育児の喜びもしんどさも夫婦で共有しておきたかった」と自ら決断した。

 同社は、次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づく「子育てに優しい企業」の認定企業。男性の育休を促進し、これまでにグループ企業も含め10人が取得した。上田さんは「先輩に続く感じで、取りやすかった」と喜ぶ。育休中、食事の支度など家事全般を引き受けた。妻が買い物に出ている間、泣いてばかりのわが子を抱いて途方に暮れた。

 「でも、父親になったという自覚と責任感が芽生えた。できる限り、子育てにかかわろうという気持ちになった」。育休を終えてから、家庭菜園を始めた。おいしい野菜を食べさせたい、大きくなったら一緒に土いじりをしたい―。今から楽しみにしている。

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▽1・23%どまり

 2008年度、女性の育休取得率は全国で90%を超えた。だが男性は1・23%。国は17年までに10%を目標とする。今回の法改正で弾みをつけたいところだ。

 改正のポイントはまず、子の誕生から間もない時期に、父親の育休を取りやすくしたこと。これまで育休取得は原則1回だったが、配偶者の出産後8週間以内に父親が取得した場合、2回目を取ることができる。

 広島労働局雇用均等室は「産後8週間は母体を回復させ、保護するための休業期間。そんな時こそ、父親が積極的に育児にかかわって、女性の負担を軽減する環境づくりが狙い」と説明する。

 一方、父親の子育てを応援するNPO法人「ファザーリング・ジャパン」は、この8週間の男性の育休を「パパだけに認められた権利」ととらえる。期間内に育休を取る父親に対し、支援金を支給するなどのプロジェクトを展開。経済的な理由で取得をためらう人を後押しする。資金は企業などの寄付で賄う。

▽「意識変わる」

 中国支部の是貞聡志さん(43)=呉市=は「里帰り出産をすると父親は取り残されやすい。親になったばかりの大切な時期を一緒に育児に励むことで、夫婦の調和や親子のきずなが生まれる。何より男性の意識が変わる」と期待する。

 このほか改正法では、育休の取得期間も延びる。現行は子が1歳になるまでだったが、父母ともに取得する場合は1歳2カ月になるまでに1年間、取得できる。

 子育てに熱心な男性が増える一方で、なぜ育休取得率は伸びないのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの09年の調査。男性に育休を取らない理由を尋ねたところ、「職場に迷惑がかかる」が50%で最多だった。育休を取得しやすい環境づくりが、企業に求められている。

 次世代法に基づく「子育てに優しい企業」の認定を受ける要件の一つに、育休取得の実績が問われる。中国地方の認定数は広島11▽山口4▽岡山9▽島根2▽鳥取1で、広がりはこれからだ。多くが従業員301人以上の大手企業で、中小企業に浸透させていくことも課題になる。

 広島県内で、中小企業として初めて認定された運輸業の総合運送(福山市)は、これまでに2人の男性社員が育休を取得。会社側から該当者に個別に制度を説明し、促した。渡辺博文社長(52)は「20代、30代は貴重な活力。若い人材を確保し、離職せずに長く勤めてもらうことが会社の利益につながる。それだけに子育て支援は重要」と力を込める。

▽中小に奨励金

 広島県では本年度、男性従業員が育休を取得した中小企業に奨励金を支給する制度を始めた。あらかじめ、男性の育休取得を促進する宣言企業として県への登録が必要。今月14日、登録の第1号企業が決まった。

 建設業の旭ホームズ(広島市佐伯区)で、従業員7人。桝卓雄社長(65)は「人手が少ないゆえ社員は遠慮して休まない。この制度を使えば会社側にもメリットがあるんだと割り切って、気兼ねなく育休を取ってもらえる」と喜ぶ。さっそく6月に男性社員(31)が10日間の育休に入る。

 国の調査では、働く女性の約7割が、出産を機に退職している。「仕事と子育ての両立」は、夫婦がともに立ち向かう課題のはずだ。たとえ短期でも、男性の育休が当たり前になればいい。きっと企業や社会、そして男性自身に大きな実りをもたらしてくれる。


クリック 改正育児・介護休業法 父親の育休取得促進のほか、子育て中の短時間勤務制度(1日6時間)の整備を義務化▽子の看護休暇制度の拡充▽介護休暇の新設―などがポイント。育休を理由に退職を迫るいわゆる「育休切り」が問題になる中、勧告に従わない企業名の公表制度や、虚偽の報告などをした企業への過料制度も盛り込んだ。

(2010.5.30)

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