角谷勝己(鯉城学院学院長) 「現代人は待てなくなった」といわれる。高速交通網の整備や携帯電話の登場が人から待つ時間を奪った結果、待つという行為自体が困難になったという。こうした現代社会の在り方が背景にあるらしいが、待てない風潮は教育や子育ての世界でも例外ではない。 1週間前に国語の読解力強化の相談を受けたばかりの小6受験生の父親から再度のご相談をいただいた。「先生に言われたように毎日問題を解かせてみたが何の効果も出ない。ウチの子には国語のセンスがないのではないか」と半ばあきらめ気味におっしゃる。 まだ始めて1週間、そんなにすぐ結果は出ない。だが、その父親にとっては「まだ1週間」が「もう1週間」になってしまう。それを「センスがない」という一言で片付けられたら子どもの立つ瀬がない。 勉強における時間と結果の相関は、1時間勉強したから1時間分、1週間教えたから1週間分成績が良くなるという等価交換的なものではない。また、子どもは皆同じではなく、早生も晩生もいるはずなのだが、最近は短い時間で結果を求める親が増えてきた。 内田樹氏が『下流志向』で、「世の親たちにとって子どもは自分の製品であり、親の成果は製品にどんな付加価値をつけたかによる。だから目に見えるかたちで、数値化でき、定量的に評価できるかたちで成果を出すことにせかされ、プレッシャーを感じている」というようなことを指摘していた。おそらく内田氏の見方は正しい。 だが、いくら親があせったところで、子育ては親の勝手で促成栽培の効く代物じゃない。「以下省略」みたいなごまかしはしないで、結果が出るまで愚直に積み上げるプロセスを大事にしたい。 プロの技を持った塾講師といえども魔法使いじゃない。結果を出すには、それなりに積み上げていく時間が要るのは変わりはしない。もしすぐにでもなんとかなりそうな気にさせられたらそれは幻想。甘い言葉にのって痛い目に遭わないようにご注意のほど。 (2009.7.27)
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