ヤドカリのふるさと
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朝いちばんの定期船が波をけたてて通りすぎていきました。ひょうたん島の老松のマツじいは、いつものようにだまって見送ります。大波がいくつか押し寄せてきたあとは、波がしらが朝日を受けてきらきらと輝いています。
いそ辺では、ヤドカリのカヤが朝の食事にせいをだしています。波打ちぎわに寄せてくる、アオサやワカメなどの海藻を手際よく集めています。旅立ちおくれたユリカモメが一羽、マツじいの肩に止まりました。
「なにか、面白いことは、あったかね」
マツじいが聞きました。
「高根島でツバメの子が五羽生まれた」
ユリカモメは、さっき、漁師の家の軒先で見てきた話をしました。
「牛水神さんじゃ、イチハツがいま満開じゃ」
牛水神は、対岸の瀬戸田の里の神社です。
「おまえは、ええのお、飛べるけん」
老松のマツじいは、笑いました。もうすぐ潮が満ちてきます。潮に乗ってまた珍客がきてくれるかもしれません。マツじいの何よりの楽しみでした。
ヤドカリのカヤは、そろそろいまの服をぬぎたいと思っていました。けれども、波うちぎわに転がっているまき貝をはさみで測ってみても、なかなかぴったりの新しい貝が見つかりません。そのうち潮が満ちてきました。波に乗ってゆらゆらとゆれるのもいい気分です。ヤドカリのカヤが波にゆられてうつらうつらしたときでした。突然だれかに背中をつかまえられました。
「だれ?」
ふりむくと、大きなおすのヤドカリでした。
「やっと、いいむすめに出会ったぜ。おれは、ヤドカリのヤンじゃ」
おすのヤドカリは、うれしそうにカヤを見つめました。
「いいともだちが来てくれたなあ」
マツじいがカヤにいいました。ひょうたん島は、生口島と大三島のあいだに浮かぶ、小さな無人島です。マツじいが立っている北側が広島県、南側が愛媛県という、一つの島が両県にまたがっている珍しい島でした。
あとひと月もしたら、ヤドカリのカヤは、新しいいのちを瀬戸の海に生み放つことでしょう。
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