ともだちがやってきた
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かぶと島は、大竹市の沖に浮かぶ無人島です。
島の西側は、山口県になる、一つの島が広島、山口両県にまたがる珍しい島です。この島に、赤牛のモロ吉が一頭ですんでいました。この島につれてこられたのは一歳になってまもなくのころでした。島にはおいしい草が年中はえていて、納屋につながれることもなく、雨が降ったら牛小屋にかけ込めばいいし、島にやってきたころは、モロ吉は大喜びしました。
島には、おいしい水のみ場もあります。月に何度かは、飼い主の弥助さんがやってきて、からだの手入れや小屋の掃除もしてくれます。一つだけなかなか慣れにくいのは、岩国の飛行基地から飛び立つ飛行機の爆音でした。突然、朝早く飛び立ったり、夜遅くに飛び立ったりすると、びっくりしてそこらじゅうを駆け回ります。
そのほかには、何も困ることはありません。それなのに、モロ吉は最近、なんだかそわそわして夜も眠れなくなりました。だれか、友だちがいてくれたらなあ、と思います。毎朝モロ吉は、朝の食事を終えると、丘の上から海に向かって「モウ、モウ」と鳴きました。
ある日、弥助さんがやってきたときも、モロ吉は、浜辺まで迎えにも行かないで、モウモウと鳴いていました。
「モロ吉、おまえどうしたんじゃ」
弥助さんは、鼻面をなで、首すじをたたいて慰めてくれます。
「ともだちが欲しいよう」。
モロ吉のことばは、弥助さんには通じません。いつものように、からだを手入れしてくれると、弥助さんは帰って行きました。
それから、一週間ほどした天気のよい日でした。弥助さんが一頭のめ牛のオキをつれて現れたのです。
「モロ吉、ともだちじゃ。なかよくしてくれよ」
白いはなすじのある若い赤牛です。オキはつなを解かれると、丘の草原に飛び出しました。
「なんて気持ちのいいところ!」
オキは、草原を思い切り走りました。
「まってくれえ」。
モロ吉はオキを追いかけました。弥助さんは、笑って眺めています。
青い海の向こうは岩国です。コンビナートから、白い煙があがっています。
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