安全と対象拡充 両立を 子宮頸(けい)がんなど3種類のワクチンについて、厚生労働省の審議会は定期接種の対象に格上げするよう求める提言をまとめた。実質無料化となる。 これを受けて、早ければ今国会にも予防接種法の改正案を提出したいという。さらに、おたふくかぜなど4種類の追加も視野に入れる。 欧米の主要国では既に公的な予防接種の対象となっており、世界保健機関(WHO)も感染症予防の観点から接種を奨励している。こうした「ワクチン・ギャップ」を安全と両立させながら埋めていく必要がある。 子宮頸がんワクチンは、主に中学1年から高校1年までが対象。インフルエンザ菌b型(ヒブ)と小児用肺炎球菌は、5歳未満の子どもを細菌性髄膜炎から守るワクチンである。 国は現在、2010〜12年度の時限措置として3種のワクチン接種に公費助成をしている。広島県内では、全23市町で無料接種が受けられる。 今回の提言は医療関係者や、細菌性髄膜炎の被害に遭った子の親たちによる粘り強い要望もあったからだろう。さらに、法律が改正されれば継続的な制度となる。 公費接種の効果は既に出ているという。厚労省によると、公費接種が本格化した11年のヒブ感染による髄膜炎の発生率は、それまでの3年間の平均と比べ半減した。 ただ、接種の拡充には課題もある。まず財源の確保である。費用負担をめぐる自治体との調整が難航する可能性がある。 三つのワクチンの接種には、年間約1200億円がかかる。時限措置から法改正による定期接種に移行すれば、国の助成がなくなり市町村の全額負担となる。財政状況が厳しい自治体の反発は必至であろう。 どの地域に住んでいても同じ条件で接種が受けられる制度を保障すべきである。そのためには、自治体が財政負担する仕組み自体を見直す必要も出てくるのではないか。 また、ワクチン接種には不安を抱く親も少なくない。その声にどう応えるか。感染症を防ぐ効果の半面、これまでも多くの人たちが副作用で尊い命を奪われ、後遺症に苦しんでいる。 「ワクチン・ギャップ」の背景にあるのは、戦後の度重なる接種禍である。国の責任を認める判決が相次ぎ、1980〜90年代には3種混合(MMR)ワクチンを打った子どもの間で無菌性髄膜炎の発症が多発した。 国は94年に予防接種を「義務」からはずした。ワクチン開発や承認は停滞した。国が予防接種を拡充する方向へと再びかじを切り始めたのは、新型インフルエンザが世界的に猛威を振るった数年前からである。 ただ、3種類のワクチンについても、小児用肺炎球菌とヒブのワクチン接種を受けた乳幼児の死亡報告が昨年相次いだ。子宮頸がんワクチンも、けいれんや意識消失などの副作用が報告されている。 厚労省は、有識者の組織をつくり、国民的議論を通して予防接種のあり方を中長期的に検討していくという。ワクチン接種の意義とリスクをしっかりと検証した上で、情報を開示するよう求めたい。 それが国民の冷静な判断と選択の前提となる。 (2012.5.25)
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