乳幼児の細菌性髄膜炎の悲劇なくせ
▽接種義務化・公費負担望む 周南市の主婦斉藤裕子さん(36)は、長妻昭厚生労働相の言葉を信じている。「急ぐべき事項である」―。それは、細菌性髄膜炎の予防ワクチン接種の義務化や公費負担の要請への返答だった。 3月、長妻厚労相に要望書を提出する市民団体に同行し、東京・霞が関の厚労省を訪ねた。「前向きさを感じた」。大臣室でのやりとりを振り返る。 斉藤さんの次男、伊吹ちゃんは2009年12月1日、1年9カ月の短い生涯に幕を閉じた。国内で年間千人の乳幼児を襲う細菌性髄膜炎が原因だった。 亡くなる8日前、11月23日夜に40度を超す熱を出すまで予兆はなかった。その日も、父の学さん(37)の夕食時には好物の白いごはんをねだった。食後はいつもの通り学さんと入浴もした。 翌朝、かかりつけ医を受診すると総合病院に救急搬送された。間もなく意識を失い、入院。インフルエンザ菌b型(Hib=ヒブ)による髄膜炎と診断を受けた。 「ヒブは知っていた。でも関心はなかった」と裕子さん。息を引き取る息子をベッドの横で抱いた。約12キロの体重を両腕で感じた。「守ってあげられなかったね。ごめんね」。謝罪の言葉ばかり心に浮かんだ。ワクチンで防げた可能性がある―。そう聞かされた。 ヒブワクチンは08年12月に国内で販売開始。細菌性髄膜炎のもう一つの主な原因菌、肺炎球菌のワクチンも今年2月に流通が始まった。 ■高額がネックに ただ、ポリオ(小児まひ)のように国が市町村に義務付ける定期接種の対象ではない。任意接種は保護者の全額負担が原則。両ワクチンの接種には総額約7万円かかる。細菌性髄膜炎の8割の予防効果が期待されながら、高額負担が敬遠され普及が進まない。 「ワクチン・ギャップ」―。日本のワクチン行政の遅れを示す言葉である。先進国の中でも無料の定期接種ワクチンが少ない現状の改善を求める声は、地域医療の現場からも上がり始めた。 斉藤さんの地元の周南小児科医会(賀屋茂会長)は6月、周南、下松、光市に両ワクチン接種の半額助成を求める署名活動を始めた。会員がいる22医療機関に賛同呼び掛けの文書を置いている。 「細菌性髄膜炎は初期症状がかぜと似ていて診断が難しい」と賀屋会長。「死に直結するこの病気を予防できれば、小児科医の負担も軽減される」。県小児科医会も知事への同様の要望を計画する。 ■与野党対応訴え 参院選を戦う与野党もワクチン・ギャップへの対応を一定に打ち出している。 民主党は、満額支給を断念した子ども手当の現物サービスの一環として「ワクチン接種の公費助成などを検討」を公約。野党第1党の自民党は「ワクチン施策の推進」をうたい、「(両ワクチンの)定期接種も含め感染症予防を促進」と唱える。 「定期接種に組み入れるのが本来の姿だが、いつになるのか分からない」「子どもに優しい社会とはとても言えない」―。周南小児科医会が医療機関に置く文書には現状を憂う言葉が並ぶ。 この7カ月間、斉藤さん夫妻は細菌性髄膜炎の関係資料のファイルを続けている。「親の判断にすべてを委ねるのではなく、公的サポートで多くの子どもの命を守ってほしい」。伊吹ちゃんが亡くなって最初の国政選挙で示した約束を、政治がどう果たすのか。夫妻は悲劇が繰り返されないよう願い、見届けるつもりでい(山瀬隆弘)
(2010.7.9)
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