中国新聞


岩国市本郷の山村留学
子どもと育む地域の宝


   

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みんなそろって楽しく夕食

 【社説】家族とは? 親子とは? 東日本大震災を機に、子どもの自立心や生きる力を育むとされる「山村留学」が再評価されている。

 その一方で、受け入れ側には少子高齢化や財源難にあえぐ自治体も少なくない。

 中国地方で最初に開設された岩国市本郷町の本郷山村留学センターにも、そんな時代の波が押し寄せている。

 存続に向け、よりよい方策を探りたい。子育ての在り方にも深く思いを巡らせる時である。

 西中国山地国定公園にある羅漢山の麓。錦川の流域材をふんだんに使った木造りのセンターが、周りの山並みに映える。

 「ご飯ですよ」。寮母さんの声を合図に、にぎやかな夕食が始まった。心温まるひとときだ。小3から中3までの男女17人が親元を離れ、共同生活を送る。

 旧本郷村時代から続く取り組みは今年で25年の節目を迎える。

 朝6時半に起床。身支度は全て自分でする。当番制の風呂掃除もある。我慢強さや助け合いの心を学んでもらおうと、相部屋で寝起きする。

 地元小の寄宿舎にも位置づけられている。平日は教師が交代で泊まり込み、勉強も見てくれる。

 学校に行けなかったりアレルギーに悩んだりしていた子どもが多い。親子でつづった修業文集を読むと、わが子の成長ぶりに驚く親の喜びが手に取るように伝わってくる。

 昨年度までに県内外から受け入れた児童や生徒は延べ460人。関東や九州の出身者もいる。

 中学校で生徒会長を務め、この春卒業した男子は大阪に帰った後、農業系の高校に進学した。5年間の生活を通して、農業に憧れたようだ。本郷への「帰省」を誓っている。

 平成の大合併で岩国市になった2006年度からは、市教委が事業を引き継いだ。

 村から市になって5年。運営コストやスタッフの処遇をめぐり、新たな課題が出てきた。

 保護者の負担額を格安にしてきたために経営を圧迫。年約750万円に上る赤字を市の一般財源で穴埋めしていることだ。

 山村留学に活路を求めた村時代の「置き土産」とも言えるが、一緒に合併した他の地域の住民の理解がどこまで得られるか。心もとない状況だという。

 指定管理者制への移管も検討の対象になっているようだ。一方で質の低下を懸念する声もある。

 ただ長年かけて培った交流の仕組みである。「子どもたちの生き生きとした姿に励まされた」という声を聞く。地元にとっても掛け替えのない「宝」ではないか。

 同じように山村留学を続ける大田市のやり方は参考になる。夏、冬休みに短期留学の希望者を市内外から募る。施設の有効活用という点からも注目されよう。

 少子化で子ども同士の付き合いは薄くなりがちだ。そんな絆を取り戻せる場として、山村留学をあらためて見直したい。

(2011.5.30)


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