過疎進む島根県海士町
若者や進学希望の生徒の流出で、過疎が進むばかりの島に魅力的な教育で人を呼び戻したい―。島根県の隠岐諸島・中ノ島にある海士町が「教育の充実」を軸にした町おこしに取り組んでいる。塾や家庭教師もほとんどない島に「公営塾」を設立し、島への「留学」も募集。目に見える成果が得られるには時間がかかるが、近隣の島々とも連携し地域再生に挑む。 ▽公営塾設立し「留学」募集 イカ、アワビ漁などが盛んな人口約2400人の海士町。小高い丘にある県立隠岐島前高は、地区唯一の高校だ。全校生徒約90人。10年前の半数以下。中学卒業後、約5割はより良い教育環境を求めて島外の高校に進学し、家族ぐるみで島を出るケースも目立つ。 生徒減少は教員の削減につながった。過去3年間で7人が離任。物理は専門教員がおらず1977年から授業自体ができなくなっていた。 都会の高校では当たり前の文系、理系のクラス分けや、生徒の学力に応じた対応もできない。保護者からは「離島でも、希望の進路がかなえられる環境を」との声が多く上がっていた。 ▽衛星放送使い授業 教育環境を何とか改善しようと、町教委が目を付けたのがIT(情報技術)。国や県の助成金で公営塾「学習センター」を今秋にも設立。インターネットや衛星テレビを駆使した授業で教員不足を補い、学校では手が回らない応用学習や個別指導、進学・受験対策にも力を入れる。 センターの運営や指導を担う「学習コーディネーター」もIターン、Uターンの人から募集。将来は対象生徒を小中学生にも広げていく予定だ。「離島でも工夫次第で希望を実現できる可能性は十分ある。地方教育のモデルをつくりたい」。東京から移り住み、設立に取り組む岩本悠さん(29)は話す。 ▽「若者を呼び戻す」 センターが担うもう一つの役割は、島外からの生徒募集だ。美しい自然や、地域や人との密接なつながりが島前高の魅力。大規模校になじまない子どもや、自然の中で子育てしたい家族にPR。図書館が一つもない町のあちこちで本を整備する事業も始まった。 海士町だけでなく、教育問題は離島が抱える大きな課題だ。財団法人日本離島センターによると、長崎県壱岐市の県立高校では、島の特色を生かしたコースを設置し島外からも生徒を募集。沖縄県北大東村でも教師を島外から公募し村立塾を運営している。 「地域の活性化には、教育がいかに重要かということに立ち返った」と話す山内道雄海士町長は、教育改革の意義を強調する。「今いる子どもたちが平等な教育を受けられる環境とともに、若者が再び島に帰ってくることが大切なんです」 (2009.8.21)
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