中国新聞


家庭的環境で5、6人養育
中国地方で3ヵ所開設「ファミリーホーム」


photo
稲垣さん(右奥)が自宅に開いたファミリーホーム。5人の子どもがきょうだいのように育つ

 虐待などの理由で親と暮らせない子どもを引き取り、家庭的な環境で育てる事業「ファミリーホーム」が児童福祉法の改正に伴い、中国地方でも始まった。5人前後の子どもが同じ住まいで、きょうだいのように育ち合う場だ。これまで社会的に養護が必要な子どもたちの受け入れ先だった児童養護施設や里親に代わる新しい形である。

 虐待を受けた子や障害児を養育する「専門里親」に認定された呉市中央の稲垣りつ子さん(59)と夫の薫さん(63)は2月、自宅にファミリーホームを開いた。夕方、一気ににぎやかになる。

 「お母さん、ただいまー」。5〜15歳の5人が小中学校、保育園から次々と帰ってくる。5人で一緒に遊び、時にはけんかも。稲垣さんが仲裁に入ってしかり、すぐに仲直りした。

 集団生活の児童養護施設にはない家庭的な雰囲気に加え、複数の子どもが一緒に生活するファミリーホーム。稲垣さんは「上の子は下の子を思いやり、下の子は上の子のお手伝いをしたりと、お互いが育ち合っている。家庭、きょうだいとはこういうものと知ってもらいたい」と話す。

 ▽愛情取り戻す

 初対面では表情に乏しかった子どもたち。それまで受けてこなかった愛情を取り戻すかのように甘えてくるという。「24時間付き添えるから、子どもに安心感が生まれる」と稲垣さん。一緒にご飯を食べ、家族で旅行に出掛ける日常を大切にしたいと思う。

 社会的に保護が必要な子どもを6人まで養育できるファミリーホームは、児童福祉法の改正で昨年4月から設置できるようになった。家庭的な環境での養育を進めようと自治体が先行した取り組みを国が制度化した。

 ▽大半は施設に

 親と暮らせない子どもの大半は施設で養育されているのが現状だ。広島県内では9割以上が施設に預けられる。県こども家庭課は「虐待を受けるなど愛情に飢えた子どもは、施設だと職員を独り占めにしようとするなどし、難しいケースも多い」と指摘。一方で、里親による養育が少ないのは、実の親に「里親と子どもの結びつきが強くなり、養子にとられる」というイメージがあるのも一因という。

 全国の里親らでつくる日本ファミリーホーム協議会によると、既に約40カ所が設立され、中国地方では3カ所になった。呉市の稲垣さん方以外に、昨年9月、美祢市の社会福祉法人が設け、職員が親代わりになって2人を養育。津山市の里親も昨年12月、自宅に開いて5人を預かる。

 厚生労働省は「保護の必要な子どもの背景が複雑化し、家庭的な養護の選択肢を増やす必要がある」(家庭福祉課)として、2014年度末までに全国140カ所の設置を目指している。(岩崎秀史)


クリック ファミリーホーム 正式名称は小規模住居型児童養育事業。2年以上、2人以上を養育するなど経験豊かな里親や法人などが都道府県か政令市に届け出て設置し、児童相談所が委託する子どもを同じ住居で養育する。子どもの定員は5人か6人。養育者を3人以上置き、県から事業費として子ども1人当たり月15万円が支給される。

(2010.3.2)

【関連記事】
【社説】「職」と「心」支える基地に 子ども自立援助、岡山の試み (2009.12.7)
里親制度普及せず 広島県内 (2009.3.31)
自立援助ホーム、広島ゼロ 中国5県唯一 (2009.3.8)
【社説】里親ボランティア 地域の養育力高めたい (2008.5.6)
「里親ホーム」動きだす 家庭的環境で4−6人見守る (2006.9.23)



子育てのページTOPへ