「里親ホーム」動きだす ■11自治体が制度化 学び直す人間関係 虐待など、さまざまな理由で親と暮らすことのできない子どもたちは全国で約三万八千人。一人でも多く家庭的な環境で育てたい、と里親による児童養育ホームの実践が関東地方を中心に動きだしている。「里親ファミリーホーム」という名の「育ち直し」の場だ。制度化を国に求め、里親同士もつながりを強めている。(木ノ元陽子)
千葉県君津市の住宅地。「ひろせホーム」という看板を掲げた一軒家から、子どものはしゃぎ声が聞こえる。広瀬タカ子さん(59)が三年前、自宅で始めた里親ファミリーホームだ。夫の正さん(62)と力を合わせて、一歳から小学二年までの五人を今育てている。 「おかあさーん、ただいま!」。一番上のお兄ちゃんが学校から帰ってきた。この日は弁当を持って行ったが、デザートのブドウを残してきた。一粒ずつ、妹たちの口に入れると、「おいしいね」と顔を見合わせる。広瀬さんが作ったうどんを、顔を寄せ合って、すする子どもたち。その食べっぷりに、夫婦の顔がほころぶ。 親の虐待や育児放棄に傷つき、翻弄(ほんろう)されてきた子どもたち。「施設は職員が交代で勤務するでしょ。家庭だったら親がずっと見守ってやれる。それが子どもの安心感につながると思うの」 里親がおおむね四―六人の子どもを育てる「里親ファミリーホーム」。国の制度ではなく、全国で十一の自治体が独自で要綱を作り制度化している。千葉県も、広瀬さんたちの強い要望で二〇〇三年四月に導入した。 なぜ、里親による「ファミリーホーム」が注目されているのか―。里親登録者は全国で約七千五百人(昨年三月末、厚生労働省)に上る。しかし、里親の家で暮らす児童はわずか三千人余りと委託率は低い。社会的養護が必要な児童の九割は施設で暮らしている。 「実の親が里親に預けたがらない傾向がある」と厚生労働省の家庭福祉課は指摘する。わが子が里親と親密な関係を築くのを嫌がり、委託に同意しないケースが多いという。 多人数の子どもを育てる「里親ファミリーホーム」。里親委託はいやだが、子どもには施設よりも家庭的な環境が好ましい―と判断した親には、抵抗なく受け入れられるという。子どもは家庭や地域にどっぷり漬かり、人間関係を学んでいく。 「最終的には親元へ帰すことが目的」と広瀬さん。実の親との関係づくりにも力を注ぐ。面会や外出、外泊…。少しずつ実の親との接点を増やしながら家庭復帰を目指す。「うちで預かるのは長くて三年。別れの時は涙、涙よ。でも自分の親を知り、乗り越えることが子どもの自立には欠かせないと思うの」 昨年八月、広瀬さんが会長になり、里親ファミリーホーム全国連絡会が発足した。里親同士が連携し、制度の定着を目指す。だが、中国地方では動きがまだない。 虐待を受けた子どもたちを受け入れる「専門里親」の資格を持つ呉市の稲垣りつ子さん(55)は全国連絡会の実行委員を務めている。「広島県では、予算がないことを理由に導入への議論も高まらない。他県では小規模養護施設よりも低予算でファミリーホームを運営している実績があるのに…」と指摘する。 「子どもには“家庭で暮らす権利”がある。広島でも取り組めるよう、行政に働きかけていきたい」と稲垣さんは訴えている。 (2006.9.23)
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