リュックをまくらにあおむけになった明さんは、こうこうと照る満月を見ているうちに、うとうととしてきました。
耳元で波の音が寄せては返しています。ふと、きれいな音楽が聞こえてきたような気がして、明さんは目を覚ましました。大潮に気をよくして、陸続きになった干潟をこの無人島までやってきたのですが、うっかり潮が満ちてくる時刻をまちがえて取り残されてしまいました。あと六時間ほど経てばまた潮が引いて帰れる、と島で一夜を明かすことにしたのです。
起き上がって砂浜を見つめた明さんは、目を見はりました。波打ち際が一面の夜光虫で光っています。音楽はその辺りからひびいてくるようでした。
「きれいだなあ」
見とれているうちに、海のさかなたちのショーがはじまりました。
明さんは、さかなたちが、海の春まつりをしているなんて知りません。ザリガニたちの貝殻音頭には、あまりのおかしさについ声が出そうになりました。いちばんびっくりしたのは、イルカの大群が現れたときでした。
「おっ、すごい!」。
明さんは、幼いときは蒲刈島で育ちましたから、瀬戸の海は見なれているはずでした。でもこの季節に、外洋にいるイルカたちが、瀬戸内海に現れるなんて初めてです。さっそく、蒲刈島で漁師をしているいとこの健さんに知らせてあげようと思いました。
けれども、ケータイからいくら電話をしてもだれもでません。しかたなく、明さんは 一一八番(海上保安部緊急番号 )に電話をしました。鹿島の先の無人島に取り残されてしまったこと、干潮になったら帰るつもりでいること、今は元気だが、空腹であることなどを伝えました
夜が明けるのを待って呉の海上保安部の巡視艇が、明さんを救助するため、無人島に向かいました。巡視艇に助けられた明さんは、呉港にもどりながら船の中で、保安官の安井さんから、イルカの大群に出会った話を聞きました。
「やっぱり夢じゃなかったんですね。じつは、ぼくも見たんですよ」。
明さんは島でのできごとを話してきかせました。
「さかなたちの、おまつりだったんでしょうかね」。
安井さんがうなずきながらいいました。
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