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  その4 カボチャの絵
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 ふつう転校するのは新学期の初めか終わりと、相場がきまっている。それなのに、はるちゃんは、夏休み前にもどってきた。お父さんお母さんと離れて、一人でおばあさんちに来たのだ。
  久しぶりにいっしょに帰ることになったその日も、猛烈に暑かった。はるちゃんは、ハンカチを頭にのせ、よっこは、かき直しを命じられたカボチャの絵――その画用紙を裏返しにして頭の上にかざして歩いた。
  「ねえ、泳いでかない?」
  「うん、泳いでこ」
  ツーとカーだ。二人は、どんどん(=淵)へ下りた。ランドセルと服は、日かげの岩の上に置き、絵は、草の上に置いて、風に飛ばされないよう、手ごろな石をのせた。
  どんどんには、三メートルぐらいの高さから滝が落ちていて、細かいしぶきが、シャワーの傘のように広がっている。こちらから泳いで行って、その傘の下の段々になった岩の上に立つと、今までに味わったことがなく、これからも永久に味わうことがないと思われるほど、気持ちがよかった。
  そのシャワーの傘は、二人が入るには少しきつかったから、二人とも先を争って泳ぎ、先に着いた相手を引きずりおろすということをした。
  そうして大々満足して、いざ帰ろうとすると、石をのせておいたはずの、よっこの絵が見えなくなっていたのだった。
  「大変! あしたまでにかき直さなくちゃなんないのよ!」
  カボチャは、いや、カボチャをかいた絵は、草むらにも岩かげにもなかった。
  風に飛ばされて川に落ちたかもしれないと、流れに沿ってさがしてくれていたはるちゃんが、「あーら、こんなとこに引っかかってる! へんなの……」と、ふしぎそうな声で言った。
  よっこの絵は、だれかが捨てたらしい折れた釣り竿に引っかかっていた。しかも、その竿には、ハヤが二匹、釣れたままだった。あごや胸びれに赤紫の斑点がついた大きなハヤと、まだ小さい銀色のハヤ――。流れの中にいると、生きて泳いでいるように見えたが、手にとると、二匹とも固くなっていた。
  「これじゃ、もうダメね」
  「だめって、おさかなが?」
  「ううん。カボチャの絵よ」
  「乾かせば、いいんじゃない? ほら、絵の具がうまいことにじんじゃってるから、カボチャだけクレパスでぬり直したら?」
  「なるほど、なるほど。ついでに、ハヤも添えたりして……」
  はるちゃん、ありがとう!
  持つべきものは親友ね。よっこは、やる気が出てきたよ。
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