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  その2 あぜ道コンサート
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 ビチュビチュ チュビチ…
  つばめたちが苗代の上をたてよこななめに飛び交っている。
  ゲコゲコゲコ……
  かえるも鳴いている。
  カチャカチャ カシャチ…
  これは、ランドセルにさしたそろばんのたまが、歩くたびにぶつかる音。みんなで合奏しているようでおもしろい。
  そうだ、リコーダーも取りだして、いま習ってる『大きな古時計』、吹いてみよ……。
  よっこが、よいことを思いついたと立ちどまったとき、ドンとだれかにぶつかってこられた。
  「わ、痛っ!」
  よっこは、思わずのけぞった。
  「あっ、ごめん!」
  すぐ後ろで、あやまる声がした。が、同時に、遠く近くで、ドッと笑う声もしたのだ。
  体をねじってみると、空色のスカートのわきが泥になっていて、足もとに、稲の苗の束が、半分つぶれてころがっている。
  「ごめーん! でも、よっこでよかったよ。ほんと、わざとじゃないんだ。な? あそこにいるじいちゃんのとこまで投げようとしたら、ワラがすっぽぬけちゃって……」
  ひっしに弁解してくる顔を見ると、ノブヤくんなのだった。
  「あらまあ! こんなによごしちゃって! ごめんねえ!」
  苗代から急いで上がってきたおばさんの顔も、もんぺも、泥だらけだ。ノブヤの投げた苗が、まさか、後ろにいたよっちゃんに当たるなんて思いもしなかった。だから、見ていた者は、つい笑ってしまった――。おばさんの話を聞いていると、よっこまでおかしくなってきた。
  「いいっス。いいっス。こんなの、洗えば何でもないっス!」
  よっこは、白い歯を見せて笑った。
  それから、ノブヤくんのおじいさんが、頭をかきながら近づいてきた。
  「その苗、おわびのしるしに、よっちゃんにあげよ。一束でも、ここへ植えときゃ、けっこうふえる。しかも、これは、モチ米じゃ。秋にはモチがつけるぞ」
  おじいさんはそう言った。
 「やったァ!」
  こうして、ノブヤくんちの田んぼの南東の隅に、約五〇センチ四方分、よっこの小さな小さな田んぼができた。
  よっこは、お返しに『大きな古時計』を、リコーダーで吹いて、みんなに聞かせた。
  プゥ ピープピ ピップピ
  ビチュ ビチュ チ
  ゲコ カッシャ カチャ…
  ま、言ってみれば、田んぼのあぜ道オーケストラというところだった。
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