ぼくとおじいちゃんは岩見山へ登っている。おじいちゃんの宝は、岩見山だというのだ。
道が平らになったあたりで、ザワザワという谷川の音がきこえてきた。つづいてキャラッ、キャラッという、今まで聞いたこともない声がひびいた。
「あれはなんの声?」
おじいちゃんは人さし指を口に当てて、ついておいでと手まねきした。
ぼくは熊よけのすずが鳴らないように手でおさえて、おじいちゃんのあとにつづいた。
まもなく、川はば四・五メートルの谷川の岸に出た。川向こうは土のがけだ。目の前の谷川は青いフチでかなり深そう。でも、川底の石がくっきり見える。
おじいちゃんがぼくのかたをたたいて、ななめ前を指さした。
みると根のついた大木がたおれて、フチの上を横ぎり、こちらの岸までとどいている。そのかれ木の中ほどに、ハトぐらいの大きさの、白黒まだらの鳥がとまっている。頭には、ななめ後ろにピンとのびた白黒のかんむり羽があり、首やおなかがくっきりと白い鳥だ。
「あっ、八十円切手の鳥だ!!」
その鳥を見たとき、ぼくはおじいちゃんに出す手紙に、いつもはっている切手の絵を思い出した。
「ヤマセミという鳥だよ」
おじいちゃんが小声でいった。
(切手の鳥はヤマセミかあ)
むこう岸の土のがけには、丸い穴が黒くぽっこりとあいていた。ヤマセミのすだ。
そのときとつぜんヤマセミが、まっさかさまにフチへ落ちた。
「あっ」
おどろいたぼくが目を見はったとき、ヤマセミはもう木の上へもどっていた。太く長いくちばしの間で、魚がピンピンはねている。ヤマセミは、魚を二、三べん木のみきにたたきつけてから、ゆっくりとのみこんだ。
「わあ、すごい」
やがてヤマセミは、ゆったりと羽を広げて飛びさった。
ぼくはしばらく、ヤマセミがいた木のみきを見つめていた。
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