その3 こうもりたちのうた
|
|
しょうにゅうせきでできた、おおきなどうくつの、おくふかくに、こうもりたちがくらしています。
こうもりたちは、なん千まんねんものむかしから、このどうくつでくらしてきました。
まっくらな、どうくつのおくの、てんじょういっぱい、それはそれはたくさんのこうもりたちが、ぎっしりと、ひしめきあってくらしています。けれどもこうもりたちは、ただの一ども、あらそったり、おたがいをきずつけあったりすることがありませんでした。
それは、なぜかですって?
こうもりたちは、みんなみんな、うたがすきだからです。
こうもりのおかあさんは、こどもにおっぱいをのませるまえに、うたをうたいます。
おっぱいのうた、です。
こうもりのおとうさんは、そとにでかけていくまえに、うたをうたいます。
いってきますのうた、です。
うたをうたって、こどものかおを二十かい、なめます。
そとからかえってきたときに、またうたいます。
ただいまのうた、です。
そして、こどものかおを三十かい、なめるのでした。
あさがくると、こうもりたちは、きれいな、あさのうたをうたい、よるになると、みんな、こどものために、しずかにこもりうたをうたいます。
こうもりのこどもたちは、こうして、たくさんのうたをききながらおおきくなるのです。
はてしなくながいあいだ、くらやみのなかでくらしてきたこうもりたちは、よくみえるめをうしなったかわりに、とくべつな、みみをもったのです。
そのとくべつなみみのせいで、こうもりたちは、うたのすきな、やさしいどうぶつになりました。
こうもりたちが、うたっています。ふかいどうくつの、てんじょうにぶらさがって。
ああ、でも……二万ヘルツのそのうたは、こうもりのみみにしか、きこえないのです。
いつか、このよからあらそいがきえたとき、そのうたがきこえるとくべつなみみを、みんなもつようになるのでしょうか。
|