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  その2 まほうのつえ 
 
  
 
 
 となりにひっこしてきた女の子は、目のまえにいるマヤには気がつかない。むねまである細長い白いつえを右足のまえで、左右にふって歩きはじめた。ゆっくり一歩一歩ふみしめて、自分の立っている場所をたしかめている。マヤは、はっとした。あの子、目が不自由なのだ。
  そのとき家の中から、
  「かな子ちゃん、庭はかたづいていないから、気をつけるのよ」女の子のおかあさんの声がした。
  マヤは、思いきって大声でいった。
  「かな子ちゃーん、わたし、となりの子」
  とつぜん呼びかけられて、女の子はびっくりしている。
  「えっ? えっ?」
  かな子はくるりとうしろを向いて、白いつえを胸の前で、すっすっとすべらせて声をかけたマヤのほうへ近づいてきた。
  「わたしを呼んだの、だあれ」
  マヤはかきねのあいだから手を出して、かな子の手をにぎった。
  「はじめまして。となりのマヤっていうの。ともだちになって」
  「まあ、うれしい。わたし、四年生よ。マヤちゃんは?」
  「わたしも。でも、ほんとはおねえさんがほしかったな」
  「じゃあ、わたしがおねえさんみたいなともだちになってあげる」
  「えーっ、目が見えないのにだいじょうぶ?」
  「わたしが歩くときは、この白いつえがわたしの目になってくれるんよ」
  「へえ、まほうのつえみたい」
  「まほうはわたしがかけるの。わたしがどんなふうに使うかどうかで、ちゃんと歩けたり、歩けなかったりするんだもの。でも、このだんちはまだようすがわからないから、ぜんぜん歩けないけど」
  「じゃあ、今からわたしが案内してあげる」
  家にもどって、マヤは大いそぎでママに説明した。
  「ほんとうに気をつけてね」
  水色のぼうしをかぶると、ママの声をせなかで聞きながら、かな子をむかえに走った。
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