その1 おまじない
さくらだんちのマヤのとなりの家は、長いことあき家になっていた。夏やすみにはいったばかりの七月のある日、朝早くから外がさわがしかった。
「おとなりにだれかひっこしてくるみたいだ」
「どんな人たちかねえ」
パパとママが話しあっている。マヤは、いそいでトイレにかけこんだ。
「ニウヨルア・トコイイ」
このじゅもんは、だれにも見られないように、三べんとなえるとききめがあるのだ。
大きなタンスやテーブルがつぎつぎと運びこまれていく。マヤは二階の窓から見物する。
(あっ、女の子)
きいろいワンピースの女の子が、タクシーからおりてきた。マヤはどきどきしてきた。
(わあい、おまじないがきいた。ともだちになれるかもしれない)
女の子はおかあさんと手をつないで、ゆっくり歩いてくる。
(おとなしい子なんだ。わたしみたいなおてんばじゃないかも)
女の子のおかあさんは足もとばかり見ながら、げんかんポーチへの階段をのぼっていく。
(あっ、こっちむいた)
女の子は顔をまっすぐあげている。
(へーい、ようこそ)
マヤは心の中でさけびながら、手をふった。けれども女の子は表情をかえないまま、家の中にはいっていってしまった。
うら庭へ出て、となりのとのさかいの生けがきのあいだから、マヤはのぞいてみた。するとうら口のドアがあいて、女の子が出てきた。
マヤは、ヒイラギの葉っぱから顔をのぞかせて、最大級の笑顔でサインを送った。たしかにこっちを向いているのに、女の子は知らんぷりをしている。
(えーっ、どうして?)
女の子にむしされて、マヤはすこしむっとした。
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