その1 赤い木の実
「あー、おもしろくなーい」
オオカミは、森の中をウロウロ歩いていました。森の中は、シーンとして、いきもののけはいすらありません。
「いたずらしてやるやつもいない。ウォーン」
オオカミは、のぼりはじめた月にむかって大きな口をあけてほえました。その口の中に、ポトンとなにかがおちました。おもわずゴクンとのみこんでしまうと、オオカミは目をクルクルまわしてたちどまりました。なにをのみこんだのかわかりません。目をこらして見上げると木々の枝がかさなりあった中に、赤い木の実をたくさんつけた、まがりくねった枝がありました。
「あの赤い実がオイラの口の中におちたんだな。まあ、しんぱいないだろう。ただの木の実だからな」
ところが、その実は、ただの木の実ではなかったのでした。オオカミは、なんだかつかれて、ねぐらに帰るとブツブツ言いながら、ねむってしまいました。よくあさ、オオカミはめざめると自分にといかけました。
「オイラってだれだっけ。ここはどこだっけ。わからない、おもいだせない…」
オオカミは、赤い木の実をのみこんだために、自分のすべてをわすれてしまったのでした。オオカミは、のろのろとねぐらをでると歩きだしました。とにかく、だれかにあって、自分のことをきいてみなくては、そうおもったのでした。森の細いけものみちを行くうちに、オオカミは、いきものたちのけはいにきがつきました。木々のかげや、くさむらの中で、こちらをうかがっているようです。それなのに、けっしてオオカミの前にすがたをみせません。オオカミには、なぜかわかりません。
「どうして、オイラにあいたがらないのか」
オオカミは、ふしぎにおもいながらつぶやきました。そのとき、あたまの上で声がしました。
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