おばあさんの古い家
2 でてきなさい
おばあさんがこわれた玄関に近づいたとき、かべの穴からみつめていた目があやしくひかりました。その影はそっと玄関のうちにひそみました。
ガタガタガタ ドンドンドン
おばあさんは、こわれた玄関の戸を、なんどもたたいたり押したりしました。でも、なかなかあきません。
「ほんとにしぶとい戸だこと。まるで、だれかが内がわからおさえているみたい」
おばあさんは、そういってためいきをつきました。
それから、からだでぶつかってみたり、ぼうでおしてみたり、苦労し、なんとか玄関をあけることができました。
おばあさんが、玄関にあしをふみいれるまえに、あやしい影は、すーっと奥のほうにかくれました。
おばあさんはなにもきづかず
「おおいやだ、かびくさいわ」
顔をしかめて、窓をあけました。
思ったとおり、家のなかのふすまや障子はぼろぼろで、ゆかには、枯れた葉っぱや、ちぎれた新聞がちらばっていました。
おばあさんは、顔にひっかかったくものすを、はらいのけると、ぐっとうでぐみをして、奥のおしいれをにらみつけました。
「かくれていないで、でてきなさい」
低い声でいいました。
へやのなかはしーんとして物音ひとつしません。
「そこにいるのはたぬきでしょう」
おばあさんがいいました。
返事がありません。
「じゃあ、きつねなのね」
それでもなにも答えません。
「わかった、いたちでしょう。そうにちがいないわ」
おばあさんが、自信満々でいったとき
「ちがうよ。たぬきでもきつねでも、いたちでもないよ」
そういって、おしいれのすきまから白いものがすーっとあらわれ
ました。
おしいれにひそんでいたのは、ちいさなおばけだったのです。
|