二 つっ君の場合
目が覚めた時、もし海の上にひとりぼっちでいたとしたら、あなたは、どうする?
ある日、目が覚めるとつっ君は、自分の家ではなく海に浮かんだ小さなボートの中にいた。母さんも父さんもいない。
もやがかかっていて、あたりはぼんやりとしか見えない。空を見上げると、黒い雲がすごい速さで走って行く。
(ぼ、ぼく、どうなってるの)
起き上がったとたん、ざわざわざわと走って来た波に、体当たりされた。あわてて船ばたにしがみついたが、パジャマも頭もずぶぬれ。波は次から次にやって来る。その上、大つぶの雨まで降ってきた。
「この雨、痛いよ。助けてー」
叫んでも、だめ。だれもいない。
雨と波で海が泡立つ。ボートは前へ後ろへ、右へ左へと、メチャクチャにゆれる。
「ひっくり返る。ぼく、泳げないんだ」
つっ君の声を波と雨は聞いているはずだけど、知らん顔。船ばたをつかんでいた手はしびれてもう力が入らない。寒い。
(震えが止まらない、よお)
どんどんやって来る波の体当たり。とうとう、ボートは転ぷくしてしまった。つっ君は水の中に投げ出された。鼻からも口からも、辛い海水が入ってきた。息ができない。
(母さん、助けて! ぼく、もうだめだ)
と、その時、ザラリとした物に触った。砂だった。立ってみると、水はへそまでしかない。
(なーんだ)
急に元気が出たつっ君。まずはボートをひっくり返して元通りにした。落ちついて見ると、船底にオールがある。それに、ぼうぼうした海の向こうに、電気のあかりが見えるではないか。
「とにかく、あそこまで、行ってみよう。次にどうしたらいいか、そこで、考えよう」
つっ君は、ボートのまん中にすわって、ゆっくり、オールを動かし始めた。
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