第四話 倒れていた人
 
  
 「見て! あそこ。だれか、人が倒れてる!」
  はるちゃんが指さした先を見ると、木かげでもない道ばたに、人がうずくまっていた。
  
  それは、デニムの半ズボンに白いTシャツを着た若い外国人で、大きなリュックにもたれかかるようにして、荒い息をついていた。真っ黒に日やけした顔には、高い鼻のてっぺんまで、汗がいっぱいふきでていた。
  自転車は、軽くてがんじょうそうだった。日本列島縦断でもしていたのだろうか。
 「おにいさん、だいじょうぶですか?」
  よっこがおそるおそるたずねると、男の人は、よっこを横目で見て、力なくほほえんだ。
 「ありがとう。急にクラクラッてきちゃって。……あなた、すいませんけど、お水、くんできていただけませんか?」
  男の人は、五角形をした水筒をさしだした。外国人とは思えないほど上手な日本語だった。
 「あのう、麦茶でよかったら、冷たいのがありますけど」
  はるちゃんが、小型の魔法ビンのはいった袋を、背中からおろした。ところが、まだ残っていると思っていた麦茶が、二、三滴しかないのだった。
 「ごめんなさい!」
  はるちゃんは、消え入りそうな声で、何度もあやまった。
 「オウ、ノウ。汗、ふきたいだったダケ。川の水でいいノヨ。おっと、川におりる、危ナイ危ナイでしたね。こっちこそ、こっちこそ、ごめんなさいデース!」
  男の人は、しどろもどろになった。よっこは、決心した。はるちゃんに「番」をしているよう頼むと、いちばん近い家まで、ターッと水をもらいに走った。
 
 
  
「ありがと、ありがとう……」
  男の人は、よっこが水筒にもらってきた冷たい水を、ごくごくとおいしそうにのんだ。
  それから、その男の人は、谷間の道にごろんとあおのけになって、ゆっくり呼吸をととのえながら、しばらく、高い空をゆく白い雲を見上げていた。
  そして、どうしたわけだか、その両方の目に、しぜんに涙がにじんできたらしかった。
 「…………」
 「…………」
  よっこたちは、どうしていいかわからなかった。はるちゃんは、
心配そうによっこを見てきたし、よっこは、そのはるちゃんを見返すだけだった。
  谷間に今日も、いつもと同じ夕ぐれが迫っていた。
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