第三話 ウサギ当番
 
  
 いつもの道を、やっとどんどん(淵)まで帰ってきたとき、はる
ちゃんが声をあげた。
 「あ、あたし、ウサギの世話するの、忘れてきちゃった。こまった
なぁ。どうしよう……」
 「いいって、いいって。ウサギなんて、一回や二回、エサたべなくっても平気よ」
  よっこは、そうなぐさめたが、はるちゃんは、じっとくちびるを
かんでいた。そして、
 「あたし、今から学校まで帰る。ここで、さよならね」
  と、きっぱり言った。
 「なによ、みずくさい。つきあう、つきあう」
  よっこは、ランドセルをゆすり上げると、もうとっととうしろ向きにかけだした。
 
  
  
 ウサギは、ウサギ小屋にちゃんと六ぴきいた。赤い目をした白いのや、黒い目をした灰色のや、茶色のまじったのや、二人がさしだすキャベツのくず、オオバコやタンポポのくきなどを、先を争って、ぽりぽりむしゃむしゃ、おいしそうにたべた。
 「うれしそうね」
 「うん。引き返してよかったわ。よっちゃん、ありがと」
  よごれてぐしゃぐしゃになっていた敷きワラも、新しいのにとりかえた。
  ウサギがかわいいのと、責任をはたしたのとで、二人は元気よく
二度めの家路についた。しかし、気がつくと、太陽はもうずっと西にかたむいていて、歩く端から夕ぐれがまとわりついてくるようなのだった。
  引き返すときは、ウサギの世話をするという目的があったけれ
ど、それをすますと、急に疲れが出てきた。考えてみれば、片道四
キロ近い同じ道を、続けて三度、朝から数えれば四度、歩くかんじ
ょうになる。
  二人は、ものも言わず、ランドセルをしょった肩を落とし、ただ
右足、左足をくたんくたんと前に出して歩いた。
  それから、どこまで帰ってきたときだったか、目の前をスウーッ
と、黄緑色の光が川の方へ流れるように走った。
 「あっ、ホタル!」
  どちらからともなく叫んだ。
  顔をあげると、たくさんのホタルが、はるちゃんとよっこの二人
をつつむように、美しい光の線を引いて飛びかっているのだった。
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