第五話 別れ
F市駅前と小学校正門前を往復していたバスが、藤原店の前まで路線を延ばすことになった。
「やったーッ!」
よっこは大よろこびで、姉さんと同じ六カ月の定期券を買ってもらった。それを透明なプラスチックのケースに入れると、わくわくした。
ところが、はるちゃんは、今までどおり、歩いて登校し、歩いて下校するという。
「そんなら、わたしも歩くわ」
よっこが言いはるのを、姉さんが止めた。はるちゃんの身になれば、そのほうがつらいというのだ。
初めてバスに乗って帰った日、よっこは、バスがかなり走ったところで、道路の前の前のほうを歩いているはるちゃんの後ろ姿を見つけた。思いがけず遠くまできていた。ほんとうなら、自分もここまできているのだと思った。
はるちゃんは、道ばたに立って、でっかいバスをやり過ごした。
「あっ、はるちゃんだ!」
「バイ、バーイ!」
気づいたみんなが、バスの窓から手をふると、はるちゃんは、バスが蹴たてたもうもうたる砂塵の中で、白い歯を見せ、細い両手をはらはらふっていた。
バスで帰る子は、バスがくるまで、運動場でカンケリをしたりゴム段とびをしたりして遊んだ。それが楽しく、よっこは、つい、はるちゃんのことを忘れがちになった。
はるちゃんは、授業を終え、掃除やウサギ当番などをすますと、正門ではなく、西のはずれの相撲場のわきを通って、県道に出た。それが、以前はよっこの帰り方でもあった。
はるちゃんが先に進んでいる距離は、長い日もあったし、短い日もあった。しかし、はるちゃんは、いつも道ばたに立ちどまってバスを通した。そして、もうもうとあがる砂けむりの中で手をふった。バスからは、アッというまに離されてしまったのだけれど。
まもなく、道路を舗装する作業がはじまった。
ホタルが終わり、セミが終わり、柿の木のこずえでモズが鳴きはじめたころ、はるちゃん家は、一家で引っ越して行った。
よっこがいっしょに帰りたいと思っても、もう、はるちゃんは、どこにもいないのだった。
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