(四)おさんぎつね 中
街路樹のかげで、女の子がしゃがんで泣いていた。
「どうしたの」
男の子が声をかけると、女の子は立ち上がって、ほら、と自分の足を指さした。
「ころんじゃったの」
「歩けないの?」
「いたいわ、いたいわ」
女の子は泣きながら言った。
「電話をしておうちの人にむかえにきてもらいなよ」
「おうちの人はいまいないの」
男の子が家の場所をきくと、さっき前を通った、あの古い家だと言う。
空き家ではなく、人が住んでいたんだ。
声をかけた以上、このままほおっておくわけにもいかないかなあ
と、男の子は女の子を自転車の後ろにすわらせた。
「しっかりつかまってなよ」
「わたし、自転車に乗るのは初めてよ。乗ってみたかったの」
女の子はうれしそうに言って、男の子につかまった。
年をきくと、男の子と同い年だという。
「同じ学校だったら、二学期にまた会えるかな」
男の子が言うと、女の子は何がおかしいのか、「うふふ」と笑った。
けがをしたことはわすれたように、女の子はすっかり泣きやんでいた。
男の子は、さっき走ってきた道をもどっていった、つもりだった。
入り組んだ路地の角を何度か曲がると、あの家の前に出るはずだ。
だけど……
なんだかようすがおかしい。
曲がっても、曲がっても、いつもの道に出ない。
思いもかけないちがう場所に出てしまう。
こんなはずはないぞと、男の子は自転車のハンドルをにぎりなおす。
手には汗をかいていた。
男の子は、わかっているつもりの道で、迷ったらしかった。
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