(4)兄さんとのわかれ
エノキのわかばが春風にそよいでいます。ピンクや黄色の花が満開です。蝶や蜂たちも飛び回り始めました。
ケムムのすきなエノキの木にも白い小さな花が咲きました。
「あのハチには気をつけな」
兄さんが黒いハチを見つけていいました。アオムシコバチという
蝶のさなぎに卵をうみつけて食べてしまうハチです。
それから一週間ほどたった時です。エノキの葉を食べていた兄さんが、食べるのをぱたりとやめていいました。
「いよいよ、最後の変身だよ」
兄さんは、枝ぶりのいい小枝を選んでのぼっていきました。やがて、手ごろな枝に身をまかせると、最後の皮をぬいでいきました。
糸をはきだして、飛ばされないように頭としっぽをしっかり結わえ
ました。さなぎに変身です。からだはもう大きなサヤエンドウほど
もあります。その時、一匹のアオムシコバチがさなぎになった兄さんのせなかにとまりました。
「だめだ、やめてくれ」
ケムムは悲鳴をあげて枝をのぼっていきました。兄さんのさなぎにたどりつくと、ケムムはツノをふりあげて、アオムシコバチを追い払おうとしました。
「だめ、だめ、よしてくれー」
ケムムはひっしに立ち向かいました。
けれども、アオムシコバチは知らん顔で兄さんのせなかにおしりをふりつけて、どんどん卵をうみつけていきます。
何日かたつと、アオムシコバチの幼虫は、さなぎの兄さんを食べつくして、ハチになって飛び立っていきました。
「兄さん、ごめんよ」
ケムムは、空っぽになったさなぎの兄さんにあやまりました。
「さよなら、兄さん」
梅雨晴れのある日、ケムムのからだもいよいよさなぎになる時がきました。ケムムは、注意深く、しげみのおくにひそむと、小さな
あけびの実のようなさなぎに変身しました。
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