(2)ケムムの変身
カマキリに吹き飛ばされて、ケムムはやっと兄さんのところへも
どりました。
「おっこちないように、居場所をまずつくらなくっちゃ。それにぼ
くらをねらっているやつは大勢いるんだからね」
兄さんが注意しました。ケムムは飛ばされないよう糸をはいて居場所をしっかりこしらえました。毎日、エノキの葉をたっぷり食べているうちに、ケムムはからだがだんだんきゅうくつになっていく
のを感じました。
「どうしたんだろうね」
食べるのをやめてケムムは近くにいるはずの兄さんに声をかけま
した。ところが、あれほどたくさんいた青虫の兄弟も見当たりませ
ん。
「兄さーん」
ケムムはあわてて探しました。「ここだよ」
兄さんが枝のつけ根からはいあがってきました。兄さんはもうこ
げ茶頭の青虫ではありません。ひすい色のからだに四つのついのと
っきを背負った青虫でした。頭には二本のつのが、かたつむりのよ
うにはえています。
「おまえも、今にこうなるのさ」
兄さんはおかしそうに笑いました。エノキの実が赤く熟れて朝晩が少しずつ涼しくなった朝のことです。
「ほんとだあ」
ケムムも四つのついのとっきを背負った青虫に変身しました。
「大きくなったんだあ」
カマキリに襲われたり、アリに捕まったりして、兄弟はだんだん
少なくなりました。ケムムが四度目の変身をしたころは、もう冬が
近づいていました。
「おお寒い。そろそろ木を下りなくっちゃ」
兄さんといっしょにケムムはエノキを下りていきました。落ち葉の
中で冬をすごすためです。暖かそうなくぼみを見つけてケムムはも
ぐりこみました。からだも落ち葉色の茶色に変わり、表面は栗の皮
のようにかたくこわばってきました。
「じっとしておいで。春がくるまで」
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