第3話 すてきなくつ
 
  
 ピパって、子どものころのパパのことだよ。
  世界でいちばんすてきなくつって知ってる?
  それはね、だれの足にもぴったりだ。それを見た人は、最初はち
ょっとびっくりする。そのつぎに、うふふって笑って、それからと
ってもうらやましそうな顔になる。そんなくつだよ。
  
  あのときは、雨がずーっとふりつづいていた。うちのなかばっか
りじゃつまらないから、ピパはかさをさして、長ぐつはいて、いつ
もの公園に行った。
  すぐにでもやみそうな、こまかい雨だったのに、なかなかやまな
かった。それに、水たまりだらけの公園には、だれもいなかった。
 ピパは水たまりをみつめていた。雨つぶが落おちると、つーん、
つーんとあっちこっちに輪ができるのがおもしろかった。するとそ
こに、アメンボがやってきて、チョン、チョンって水の上をスケー
トしはじめたんだよ。
  ピパはアメンボにいった。 
「やい、アメンボ。そんなに雨がうれしいか。やい、アメンボ。お
まえのくつとぼくのくつ、とりかえっこしないか」
  すると、アメンボが「いいよ」っていってくれた。
  さっそくピパは長ぐつをぬいで、はだしになって、水たまりに入っていった。アメンボみたいに水の上はすべれなかったけど、水た
まりの底のどろは気持ちよかった。ピパは足でどろをかきまわし
た。ホイップクリームくらいなめらかになるまで。
  すると、アメンボがピパの足を見ていった。
  「おまえ、いいくつはいてるな」
  ピパは長ぐつを手にぶらさげて、はだしのままでうちにかえっ
た。すれちがう人はみんなピパの足を見て、びっくりして、うふふ
ってわらって、うらやましそうな顔になった。
  そう。どろんこが世界でいちばんすてきなくつなのさ。
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