2000.4.25
靴は? 下着は? 髪型は?
じっとせず外に出たがる長男と比べ、おとなしい娘は育てやすいと思っていた。しかし、それも妻がいる時の話だった。父子家庭になって戸惑うのは、娘の方だった。
妻と別れた夏が過ぎ、秋物に替える時、三歳の娘の服には頭を抱えた。男兄弟で育ち、妻の買い物にも付き合わなかった私には、子ども服の女の子コーナーは無縁の場所である。
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イラスト・丸岡 輝之 | |
結局、長男のお下がりで間に合わせることにした。赤い半ズボンにブルーのトレーナー、襟元からはポロシャツの白い襟をのぞかせて。寒くなったら、上に紺のジャンパー。靴の絵はアニメのジュウレンジャーである(靴下は娘も譲らず、大好きなミンキーモモのハイソックスだったが)。
髪も短くカットしてもらうと、見事にかわいい男の子になった。初対面の人とは決まって「男の子二人で頼もしいですね」「いえ、下は娘なんです」「えっ」という会話になった。
もっとも下着だけは、そうもいかない。スーパーでバックプリントのある女の子用を品定めする。ところが店員の不審げな目。これには懲りて、以来、本人を連れて行った。
その後、子ども服売り場のマネキンやスタイルブックで研究する。スパッツやジャンパースカート、サロペットパンツなど次第に女の子らしい服を買えるようになった。
そうすると今度は、ヘアスタイルがそぐわなくなってくる。小二になると、娘はロングにすると言い出した。「ショートが一番」と言っても納得しない。母親なら三つ編みくらいは教えるのだろう、とヘアスタイルの本を買い込む。家中の靴ひもを集め、半分に折った束を髪に見立てて練習した。
三つ編みは簡単だった。次は編み込み。しかし靴ひもではできても、髪ではうまくいかない。何回やり直しても、どこかに膨らみができた。それでも、娘は鏡の前で得意そうだった。
娘の成長には面食らうことが多かったが、おかげでファッションに関心がわいた。スーパーで装飾品を眺めたりするのも娘がいたからだ。生活に色を付けてくれたことに感謝している。
中学生になった今。私の服では気に入らず、髪も自分で編んでいる。私より友達との長電話が忙しい。しかし私はまだまだ娘に尊敬され、必要とされたい。
先日から何回かスポンジケーキを焼いているのはそのため。今年の誕生日は手作りケーキで決めるつもりだ。
(一人親家庭サポーター=広島市)