中国新聞

 天野 和昭   
 

2000.4.11

 6. みんなで家事



 失敗も経験 あえて任せる

 大学に入った時、友人の下宿で親子丼(どんぶり)をごちそうになった。テキパキとだしを作り、玉ネギを刻む手つきを見てびっくりしていると「おまえ、こんなものも作れないのか」とあきれられた。中学生でも分かる数学の問題を解けなかったような恥ずかしさと悔しさを感じた。教えてくれなかった母を恨んだ。

 私が子どもに家事の分担をさせるようになったのは、親子丼のせいである。

イラスト・丸岡 輝之

 離婚後、子どもと三人の生活が始まって、当時五歳だった長男の仕事を決めた。私が夕食準備をする間に、三歳の娘をふろに入れることである。

 妹の体を洗い、シャンプーをし、「目をつぶれ」の号令で頭に湯をかける。妹を湯船に漬けて、今度は自分の体を洗う。二人で百まで数えて「あがったよ」と声を掛けるまでが、長男の役目だった。

 小学校に入ってからは、夕食準備の手伝いだ。空腹にかこつけて「早く食べたいだろ。だったら…」と持ちかけた。

 中学三年になった今は、台所に立つ私のそばで、今晩のおかずを見てそれに合う皿を用意し、包丁を使っている間は煮物の火加減を見、手が空いたら使ったフライパンやなべを洗う。無言のうちにすべきことを心得て、やってしまう。料理人と見習いが仕事をしているようなものだ。

 洗濯も任せている。部活で使うユニホームを洗うときに家族全員のものもしてしまうのだ。

 色物は分けて洗う。ひも付きのものや襟ぐりが広がりやすいものはネットに入れる。毛玉を防ぐにはすすぐ時に柔軟剤を使う。干す時は形崩れしないように、取り込みは日が落ちる前に、とポイントを教えて。

 でも時にはためたまま放置してある。部活で疲れている時は、途中で寝てしまう。翌朝慌てて起きて、脱水しただけの湿ったものを着ていくこともあった。「どうしておれがこんなことをせにゃいけんのか」とつぶやきながら。それを見るのは少し切なかった。

 しかし家事に関しては、親が教え、実践させることしかないと思う。親がやってしまった方が早いのだが、あえて子どもにやらせる。本人が困ることを知りながら、なお小さな失敗を経験させることだ。

 ただうちの場合、分担をめぐって、食事の後片付け担当の中一の妹と長男の言い争いが絶えないのが、頭が痛いところだが。

一人親家庭サポーター=広島市)

 
  

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