中国新聞

 天野 和昭   
 

2000.2.29

 4. テレビとさようなら



 カルタ・相撲…3人一体感

 テレビのない生活をしている。九年前に台風でアンテナが倒れ、そのままにしているからだ。

 あればどうしても遅くまで見てしまう。子どもも、寂しいので一緒に夜更かしをする。翌朝、保育園に行く早起きがつらい。それならと思い切った。

イラスト・丸岡 輝之

 当初、子どもたちを寝かせるまでの約一時間の過ごし方が分からなかった。思い付いたのは折り紙。よく作ったのは手裏剣で、長男の翌日の遊び道具になった。

 新聞や広告によるフェンシングの剣もよく作った。紙を細くしっかりと巻き、厚紙のつばとさやを付ける。保育園でも威力を発揮したようだ。

 漫画の絵カルタもよくやった。まだ字を読めない長女も、絵を見てしっかり札を取っていた。長男はなまじ覚え始めていた字を読もうとして時間がかかる。妹に負けては悔しがって泣いたものだ。

 一階の居間が室内遊び教室なら、二階の寝室は体育館のようだった。

 布団の上で相撲を取る。押し入れ上段から飛び降りる。子どもが大きくなるにつれてアメリカンフットボールやラグビーのまねも。ふすまを開けた続き間でソフトテニスのボールでのキャッチボールまでやった。

 「さあ、寝ようか」と言うころには三人とも汗をかいている。妻がいればみんな「やってはいけません」ゲームばかりだった。父が率先してエネルギーを吐き出させていたからか、子どもが暴れてふすまを破ったことは一度もない。

 テレビはだめでも、ビデオは見られる。子どものアニメに私が付き合い、私の映画には子どもが付き合う。三人が一緒だった。だから私が台所で口ずさむのは「ドラえもん」で、子どもは字幕付きの洋画が好きな小学生になっていた(字幕を要領よく読んでやる努力もしてきた)。

 テレビが映っていた時は、夕方のアニメを子どもが、七時と九時のニュースを私が、歌謡番組やドラマを妻が見ていた。いつもだれかがテレビを向き、家族が分裂していた。テレビがなくなって初めて家族になれた気がする。

 小六と中二になった子どもたちは、今はFMラジオを聴いたりバットの素振りや宿題をしたりと、それぞれの時間を過ごしている。晩酌しながら長い夕食を一人でとっている私にとって、あのふろ上がりから寝床に就くまでの騒々しい生活が懐かしい。

一人親家庭サポーター=広島市)

 
  

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