2000.12.19
優しい大人 心配な大人
父子家庭になると、以前に比べて大人の姿がよく見えるようになった。特に買い物を通して。
子ども二人が小学校低学年のころは、毎日一緒に買い物に行った。夕食の材料をかごに入れ、どちらか一人におおよそのお金を持たせ、レジに行かせる。お金が不足した時は、手を上げて合図させる。支払いが済むと、百円をお駄賃にしていた。
|
イラスト・丸岡 輝之 | |
はじめは四、五歳の子だけで買い物に来ていると思われ、店員にいろいろと質問された。子どもの後ろに客の列が伸び、慌てて「買い物の練習です」と飛び出したものだ。
釣り銭を落とさないようにと小さなポリ袋に入れてもらったり、レシートの裏にテープで張り付けてもらったりした時は、心配りがうれしかった。私たち家族に慣れてからは、「いい子だね」とほめてもらうことも多かった。子どもたちは、母親代わりの多くの人の愛で育てられていると感謝した。
支払いには三つの言葉を大きな声で言う約束だった。
まず「お願いします」。大きな声で言わないと、後ろの人に、支払い済みの前の人の子と勘違いして順番を抜かされるから。
そして「ありがとうございました」。わが家の会話の基本の言葉である。
三つ目が「袋はいりません」。地球環境のことを考えると、これ以上ごみを増やしたくない。だからポリ袋をとっておいて、買い物に再利用しているからだ。
ただこれは、言うタイミングが早過ぎると、「えっ」と問い返される。遅過ぎると、断りを言って返さなければならなくなる。計算が終わってポリ袋を出そうとする瞬間がポイントである。
さてその日は小一の娘が買い物当番。「きょうは袋をむりやり渡されたから、返してきたよ」「偉かったね。これでポリ袋一枚分、地球が汚れずに済んだ」。そんな話をしていた時である。
私たちのわきで、中年の女性が袋詰め用の台に備え付けてあるロールからポリの小袋を切り取り始めた。クルクル、ペリッ、クルクル、ペリッ…ゆうに二十枚以上も。
子どもたちの立場に立ってみると、大人には、「世間の優しさはまだ廃れてないぞ」と期待を感じさせる顔と、「これでいいのか」と将来が心配になる顔の二つがある。
(一人親家庭サポーター=広島市)