中国新聞


是正指導10年 広島県教育は今 <5>
教職員組合
平和教育の衰退を懸念


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組合員数減に危機感を募らせる県教組の事務局

 ▽組織力低下も影響

 一九九八年五月、文部省(現文部科学省)による広島県教委への是正指導は、被爆地の平和教育にとってもターニングポイントだった―。広島県教組の教員たちが中心の広島平和教育研究所の藤井睦弘事務局長(46)は、そうとらえている。

 国旗掲揚、国歌斉唱の徹底に象徴される是正指導。平和教育の在り方については、直接の言及はない。

 しかし研究所によると二〇〇四年、県内の公立小中学校で平和教育の年間計画を立てた学校は23・7%。一九九七年の95%に比べ激減したという。広島市教委の〇五年度調査でも、原爆投下日時の正答率は小学生高学年49・6%、中学生67・6%。十年間でそれぞれ6・1、7・1ポイント低下した。

 ▽小中の加入者半減

 なぜだろうか―。是正指導を機に県教委は学校現場に「教育と、社会運動、政治運動との区別」を要請した。各校で以来、日本によるアジア侵略の歴史を詳しく教えたり、平和集会で指導したりすることの「自粛」が広がったと研究所はみる。

 平和教育の推進役としての教職員組合が、その組織力を低下させたことも大きいとする関係者も少なくない。

 是正指導後、県教委は「組合に加入しなくてもよい自由」を強調した。例えば、県内最大組織の県教組は加入する小中学校の教職員数を公表していないが、十年前の約半数に減少したとされる。小早川健執行委員長(57)は「これまでの蓄積を組織的に継承できなくなっている」と危機感を強める。

 高校教職員らでつくる県高教組の関係者も「九割を超えていた組織率が、学校によっては五割を切った」と打ち明ける。「職場の誰が組合員か知らない」と広島市内の男性教諭(28)。若い世代の関心は確実に薄れている。  一方で教職員組織と県政との間に、「ねじれ」現象がある。

 ▽知事与党の立場に

 在任期間が十四年半となった藤田雄山知事に対し、ある自民党系県議は「最大の業績は教育改革」と評する。県行政のトップとして教育委員任命や教育予算の配分を通し、是正指導後の十年間の変化をリードする立場にあったからだ。

 そして組織力をそがれた県教組や県高教組は、知事選で藤田氏を推薦してきた連合広島の加盟団体でもある。

 また、県教組を出身母体とする唯一の県議は議会内で、民主、社民党系でつくる会派に所属する。それは藤田県政を支える「知事与党」の立場。知事後援会の政治資金不正事件をめぐる〇七年七月の不信任決議案の採決でも、この県議は会派の決定通り、不信任への反対に回った。

 県教委が毎年度、教育の現状や方針をまとめて発行する冊子「県教育資料」。是正指導後は一ページしか割いていなかった「平和教育」の項目が、本年度は実践例を加えて二ページに戻った。

 「知事与党として訴えた成果」。組合関係者の言葉に、この十年間の「力学」の変容が透けて見える。(永山啓一)=おわり

(2008.5.24)


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