中国新聞


是正指導10年 広島県教育は今 <4>
トップダウン
管理強化で文書激増


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休憩時間の職員室(広島市内の小学校)

 ▽多忙が教員の悩み

 広島県内の中学校に勤務する女性教諭が、うつ病で一時休職するまでの日々を打ち明けた。「大切なのは授業。その準備に手を抜くまいと思った…」

 担任としての経験は浅かった。授業の指導案や、週ごとの計画である「週案」の作成と到達度の報告、思うようにはいかない学級づくり、保護者への対応、学校行事の準備にも追われた。

 「教えてくれる先輩はいたけど、悩みに共感してくれる人はいなかった」。家に帰り着くのは連日、午後十一時ごろだったという。

 そんな生活が半年も続いたころ、上司が声を掛けてきた。「もっと頑張れ」。次の日から学校に行けなくなった。「これ以上どう頑張れと…」

 ▽心病み休職や辞職

 精神疾患による教職員の休職が県内の公立学校で増えている。県教委がまとめた二〇〇六年度の休職者数は百四十五人。千人あたりで八・九九人。この十年で約三倍に増え、都道府県平均の五・一〇人を大きく上回る。

 さらに、〇七年度は小中学校の新採用教諭が心の病で七人辞職する「異常事態」となっている。現場で何が起きているのだろうか。

 一九九八年五月、文部省(現文部科学省)の是正指導を機に、県教委は教職員の管理を強めた。勤務状況や授業時間数のチェックも行き届かなかったそれまでの学校現場は一転した。

 学校運営の方針を話し合っていた職員会議は、県教委や校長の指示を伝達する場に。各教員は授業計画と成果の詳細な報告を求められるようになった。

 県教委や市町教委が学校に出す文書の数が、トップダウンの強化を端的に示す。

 「確かに増えた。この十年間で二倍とまでは言わないが、相当な量」。広島市安佐南区、原南小の石原洋校長(59)は、膨大な文書ファイルを開きながら説明する。

 授業時間や内容のチェック、食育、体力向上などの取り組みへの指示。昨年度中に届いた文書は千四百六十三件に上る。教頭や主任を通じ教員に伝えられる。県教委や市教委への報告が求められるケースも多いという。

 ▽不祥事の遠因示唆

 「トップの方針が現場に伝わりやすくなった。授業計画や報告は保護者への説明にも必要」。県連合小学校長会の会長も務める石原校長は、システムを肯定的に受け止める。

 しかし、県教組の小早川健執行委員長(57)は「職場は多忙感を抱え、生徒と接する時間がない。自分の考えを発揮する余地もなく、やりがいが感じられなくなった」。教員不祥事の遠因とも示唆する。

 うつ病で休職した女性教諭は今、元気に教壇に立つ。「忙しい。でも、ほとんどの先生がやっていること。私は要領が悪いから…」

 心の病の増加は教員に限ったことではないことも踏まえ、県教委は管理強化と精神疾患の増加との関連を認めていない。「成果評価に負担感を感じる人もいるかもしれないが、子どもが伸びる姿にやりがいを感じる人には、働きやすくなっているはずだ」。榎田好一教育長(60)はそう強調する。(永山啓一)

(2008.5.23)


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