学力向上 競争重視 底上げ効果
新旧の民家やアパートの間に田畑が点在する。東広島市高屋町。夜のとばりに包まれ、カエルの鳴き声が響く中、まだ新しい校舎二階の教室から明かりがこぼれる。 「何を勉強するか。まず教科の単元を細かく分析して計画を立てよう」。夕食を済ませたばかりの中学二年生百五十八人が、家庭での学習法に関する講義を真剣に聞いていた。 広島県立初の中高一貫校として、広島中・高は二〇〇四年春、同じ敷地内に同時開学した。以来、大学受験を控えた高三を除き学年ごとに年三回の「短期入寮」を続ける。生徒たちは一晩か二晩、寄宿舎に合宿しながら規律や家庭学習の習慣を身に付ける。 「あらゆる面で県の教育をリードする学校を目指す」と榊原恒雄校長(56)。講義が終わった教室で生徒たちは、午後十一時の就寝時まで自習を続けた。 ▽中高一貫校が象徴 一九九八年五月、文部省(現文部科学省)の是正指導を機に、県教委は「競争」重視へと、大きくかじを切った。少子化が進む中で新設した中高一貫校は、学力向上対策の象徴と言える。 県立高校改革では是正指導から二年後の二〇〇〇年度、進学指導を強化する拠点校五校と重点校十五校を指定する制度を導入した。〇六年度からは通学区を廃止。高校を生徒が自由に選択できるようにし、特色ある学校づくりを競わせてきた。 本年度の拠点校の一つ三津田高(呉市)の安西和夫校長(59)は「是正指導前は、学力向上なんて言い出せる雰囲気ではなかった」と振り返る。受験戦争をあおらない県立高校に対し、保護者からは「進学が不安」との声が寄せられたという。 いま、その反動のように、各校は難関国立大の合格率などの数値目標を掲げ、積極的にホームページでも公開する。「切磋琢磨(せっさたくま)により、県全体の高校生の学力を底上げする効果はあった」と県教委。大学入試センター試験を受けた県立高の受験生で平均点以上の割合は、二〇〇〇年の26・6%から〇八年は33・8%と増加傾向にあるという。 創立五年目の広島中・高で一貫教育を受けた生徒たちが大学受験に挑戦するのは来年度から。本年度までは高校から入学した生徒だけだが、既に今春、東京大合格者を四人出すなど県内の私立進学校に迫る勢いだ。 「大学進学だけが教育の目標じゃないのは当然」と前置きしたうえで、榊原校長は「当面の目標として大学に照準を合わせるしかない」と言い切る。保護者の声も、教育現場の背中を押す。 ▽毎年500人が不合格 だが、「競争」志向は、別の現象を生む。 是正指導後、県教委は「高校進学希望者は全員入学」としていたそれまでの基本方針を転換した。一定の学力がなければ入学を認めない。今春、定員割れの公立高で不合格とされたのは延べ四百七十九人。ここ数年は毎年五百人前後に上る。 「大学進学ばかり強調され、置き去りされる生徒がでている」。県高教組の有田耕執行委員長(60)は、進路が決まらない子どもの増加をうれう。(永山啓一) (2008.5.21)
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