「孫育てのとき」

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第2部 対立を越えて

4.まな娘 −友達感覚 老後も安心

服着せ替え。おしゃべり楽しい


産み分け希望 男女逆転

 「どう、気に入った?」「うん」

 英国人男性と結ばれたガブリエリ智子さん(40)=広島市安佐南区=が楽しげに、娘の杏奈ちゃん(5)の服を見立てている。智子さんの母の石田瑞子さん(71)=同市中区=が目を細める。「私と智子も一心同体というか、仲良くて。一卵性母子みたいじゃね、とよく言われたんですよ」

 日曜日の昼下がり。広島都心のデパートの子ども服売り場は、二世代、三世代の母と娘たちでにぎわう。杏奈ちゃんは、人気ブランド「メゾピアノ」のお得意さまだ。店内の棚に、ほとんどピンク一色の子ども服が並ぶ。靴下は一足二千円近い。上下で二、三万円の服も珍しくない。

 「できれば、女の子がほしかった。服は着せ替え感覚だし、おしゃべりも楽しい」と智子さん。まな娘の月十万円ほどのおしゃれ代は実母、石田さん持ち。「娘を授かったから、二人目はもういいかな」と笑う。

    ◇

 女の子がほしい―という声が今、母親たちの間で強まっている。

 男女の産み分けに協力的な全国約五百カ所の産婦人科医師でつくる「SS研究会」。約二十年間に五千人以上の妊産婦を診てきた。「昭和の時代は、跡取りの男児を望む夫婦がメーンだった。平成になって逆転し、今は約70%が女児希望」。親子二代で研究会を率いる杉山力一さん(36)=東京都=は明かす。

 同会会員の広島市中区、中川産科婦人科医院では、女児の産み分け希望が約90%を占める。男女の比率が十年前と、そっくり入れ替わった。中川仁志院長(40)は男女逆転の背景を、こう推し量る。「男児を望んでいたのは主に、中小企業の経営者や商店主にお寺さん。不況や競争社会で勝ち組、負け組に分かれ、跡継ぎ事情が何か変わったとしか思えない」

 〈男児、女児のどっちがほしい〉。広島都市圏の既婚女性に尋ねた中国新聞情報文化センターのアンケートでも昨年十二月、女児希望は78%あった。「友達みたいな親子になれる」「結婚後も実家に居着いてくれそう」「老後に頼れ、安心」などの理由が挙がった。

 回答者で娘一人がいる会社員小川亜紀さん(35)=西区=は「本心は娘がほしくても、嫁の立場を背負っていた昔は言えなかっただけでは。自立した、働く女性が増え、それだけ夫婦間や家庭での発言権も高まったんだと思う」とみる。

    ◇

 「今どきの母親は大学出が増え、自己主張も才覚もありますからね」。元家裁調停委員の井田宏子さん(80)=西区=は、離婚や家族関係の悩みを語らう座談会を広島市内で開く「アクエリアス」の世話人を引き受けている。「祖父母が口出し手出しして、親世代の権限を越えたらいけないんです。若夫婦のきずなにひびが入るもと。夫婦それぞれもしっかりして、実家からの過干渉には防波堤にならないと」と警鐘を鳴らす。

 「もう男女どっちでもいい。人並みに孫の顔が見たい」。多賀茂夫さん(65)=福山市=は、独身を続ける長男(36)にやきもきし続けている。慶応大出身で、外資系の証券会社にスカウトされ、年収も同世代がうらやむほど。身長も一八〇センチはあるし、反抗しない素直な子だった。「遅い反抗期、ですかなあ」

 長男が二十代のころに二度、彼女を連れてきた。学歴差や人柄が気に染まず、結婚に反対した。息子は一層、本心を明かさなくなった。おととしの正月、里帰りしてきた時に妻に伝言を頼んだ。「誰を連れてきても、もう反対せんから」。精いっぱいの譲歩。吉報を待っている。(石丸賢)

2006.3.2