「孫育てのとき」

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第2部 対立を越えて

5.「現在の幸福」も大切

寄稿「孫へのまなざし」


児童精神科医 佐々木正美さん

「孫育て」を昔取ったきねづか、2度目の子育てと祖父母世代は考えていないだろうか。第2部では、娘・息子夫婦との育児観の違いや子育て環境の変化に折り合い、間合いの悪さを感じているケースも見てきた。

 <育児の主役が親であれば、祖父母が孫を甘やかしても大丈夫>(「続・子どもへのまなざし」)。自著にそう書く児童精神科医師、佐々木正美さんから届いた祖父母世代へのメッセージ「孫へのまなざし―幼子の現在を幸福にする力」を最後に紹介する。

 (「孫育てのとき」取材班)

 ■情緒発達に不可欠

Photo佐々木正美さん
自分の子育て経験から、「祖父母は、親のようではないのがいい」と考える佐々木さん
ささき・まさみ 1935年、群馬県生まれ。横浜市小児療育相談センター長などを経て、97年から倉敷市の川崎医療福祉大教授。育児書「子どもへのまなざし」(福音館書店)は続刊も含め、発行部数約40万冊のロングセラー。

 私は長男が生まれる直前に、妻の同意の上で自分の両親を自宅に招いて、三世代家族で生活を始めた。子どもたちは生まれながらに、両親のいる家で祖父母と一緒に生活を始めたのである。

 子どもの祖父母は私の両親であるから、どのようなやり方で、私たち三人の子どもを育ててきたのかはよく承知していた。

 しかし祖父母たちはまた三人の孫が次々に生まれてくると、どの幼子にも私たちに対してとっていた態度とは、およそ似ても似つかないかわいがり方を示すことになった。  孫たちはそれぞれ、物心がつき始めてくると、あれこれいたずらをするし、さまざまな要求を示すことになったが、決してしからず、そればかりかどんな要求にも大抵のことはうれしそうに受け入れたのである。

 私の父はテレビの「水戸黄門」を見ることを、毎週大きな楽しみにしていた。しかし孫たちが祖父母の部屋に侵入して、チャンネルをほかに回してしまっても、決してしからなかった。妻が気を使って子どもたちに、祖父母の部屋ではなく食卓近くにあるテレビを見るように注意しても、彼らは聞き入れなかった。そればかりか、祖父母は聞き入れなくても良いというように振る舞ったのである。

 夕食の準備がいつもより遅くなることがあった。子どもたちは空腹に耐えられず、泣きべそをかきそうになって、祖父母のところに行こうものなら、大抵カステラやせんべいなどのおやつを与えていた。当然、その直後に始まる夕食は、ほとんど食べられなかった。

 こういう種類の愛情を、祖父母は自分たちの体力が衰えるギリギリの時まで、どの孫にも与えた。実は車で一時間ほどのところに住む妻の両親からも、同じように愛された。

 私はそういう両親の孫に対する愛情を見ながら、しみじみ考えたものである。親の愛情には子どもの「将来」を幸福にしてやりたいという思いがあって、現在の喜びを犠牲にしがちであるが、祖父母の愛情は、孫の「現在」を幸せにしてやりたいという思いが豊かなのである。

 もちろん孫の将来の幸福を考えないはずはないが、それは両親が考えているという安心感が、そういう態度を取らせるのかもしれない。しかし、子どもの現在の幸福を第一義的に考える祖父母の愛情は、幼い子どもの情緒の発達には、かけがえがないというほど大切な養育の要素だと思う。

 祖父母が晩年体力が衰えて、孫たちに何もしてやれなくなった時、私たちは三人の子どもたちが、祖父母の願いを断ったり面倒くさがったりすることが決してないことを、思い知らされることになった。「あんたたちは、よくうちに生まれてきてくれたね」というのが、祖父母の口癖だったということを、妻から聞かされたことがある。

 親が祖父母のようなやり方で育児をしてはいけないと思うが、祖父母も親のようではないのが良いと思う。子どもたちはしてやったように、して返してくれるものである。

2006.3.3


 「孫育てのとき」第2部は今回で終わり、第3部は4月に掲載予定です。記事の感想や「わが家の孫育て」エピソードなどの情報もお寄せください。幅広い世代から声をお待ちしています。〒730―8677中国新聞報道部「孫育てのとき」取材班。匿名希望でも住所、名前、年齢、職業を記入してください。